第469話 案内人ビアンカ

 決戦の舞台へと向かい夜道を歩く3人。行き交う人々や街の様子に今のところ変化はない。ネル・フィードは先頭を歩きながら、あの日と同じく月を見上げた。


 3日前、アイリッサと訪れたモライザ礼拝堂。そこで出会った長髪のイケメン神父、アルバート・メルデス。彼の目には確実に闇が宿っていた。


 にもかかわらず、他の能力者たちから感じたようなおぞましいまでの脅威を彼から感じ取ることはなかった。例えるならば、今まさに目に映っている闇夜に浮かぶ月。


 彼の異様なまでの執着や性癖、精神状態ならば、激しいリビドーやタナトスが抑えきれずに溢れ出していてもおかしくはない。


 彼の『生きている人間に恐怖する』という常軌を逸した日常。それに伴う安定剤の服用が、彼から能力者特有のとげを消し去っていたのかも知れない。青い月光に照らされながら、ネル・フィードはそう思った。


 小高い丘を登った先に礼拝堂はある。ひとけのない丘を歩いて行くと、外灯の下にバニーガールの衣装に身を包んだ可愛らしい女性が立っていた。


 顔色は異常に白く、目はビー玉のようで生気が感じられない。その姿はまるで人形のよう。そんな彼女を見たエルフリーナは驚いた。


『ビアンカちゃん?』


「その名前は確か、メルデスの愛玩ゾンビ。永遠のレディードールか!」


「あんなかわいい子に手をかけるなんて、許せない!」


 プッチーベーカリーの看板娘ビアンカ。焼きたてのパンを運ぶ、愛くるしい彼女の脇の匂い。その官能的な香りを嗅ぎ逃さなかったメルデス神父は、すかさず彼女をドール候補に決定し、エルフリーナに拉致を依頼。その日のうちにメルデスの手にかかり、ゾンビにされてしまった。


 そんな悲運の女子大生ビアンカは、自分を見ながら悲しい表情をする3人に気づくと、突然笑顔になり、ソフトボール女子らしい、大きなお尻を振りながら近づいてきた。


『みなさんこんばんは♡ この先は私、ビアンカがご案内致しまーす。メルデス様がお待ちです。では、参りましょー♡』


 礼拝堂は目と鼻の先。


 このタイミングでの永遠のレディードールの登場に、3人は警戒を強めざるを得なかった。

 

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