第470話 電光石火

 ゾンビに噛まれた人間は即ゾンビになる。それは誰もが知るところ。残りの永遠のレディードールが辺りに潜んでいる可能性も十分あり、前を行くビアンカが突如豹変し、襲ってきてもなんら不思議ではない。


 ネル・フィードとエルフリーナは全方位に最大限の注意を払う。アイリッサも全身にエンジェルパワーを漲らせながら進んでいく。そんな警戒心MAXな3人に気づき、ビアンカは吹き出すように笑いだした。


『ぷはははっ! そんなに怯えないで下さいね。実はいま、礼拝堂の扉には侵入禁止のおまじないがかかっているんですぅ♡』


「ぷひ? おまじない?」


『それを解除するのが私の役目なんです。なので肩の力を抜いて、リラーックスしてついてきて下さーい♡』


 ビアンカのその言葉からは嘘の匂いが漂うことはなく、動作ひとつをとってみても、殺気のかけらも感じられない。3人は言葉を交わすことなく、静かにビアンカの後を歩いていった。


 ビアンカを先頭に歩くこと5分。モライザ礼拝堂が見えてきた。謎の黒い炎に覆われた入口の大扉は、確かに人の侵入を拒んでいるようだった。


「あれはダークソウルですか?」


『ゼロさん、違うと思う』


「なんかきれいな炎だね」


『では、鍵を開けますね♡』


 ぷち!


 ビアンカはバニーガールの衣装の股間部分をグイッと引っ張り、陰毛を1本抜いた。


「なっ?」


「ぷひっ!?」


『なにそれ! ウケんだけど』


 呆気にとられた一同の目の前で、ビアンカは恥ずかしげもなく、いま抜いたばかりの陰毛に魔法をかけた。


『えいっ♡ 鍵になーれ!』


 ぽんっ!


 陰毛が一瞬で黄金の鍵になった。ビアンカはかわいいうさみみとお尻を揺らしながら、炎に包まれた大扉の鍵穴に、太くて硬い黄金の鍵をズコっと差し込んだ。


 ガチャンッ!


 シュボウッ!!


 ビアンカが鍵を開けるのと同時に、大扉を包んでいた怪しくも美しい黒い炎は、嘘のように消えた。


『どうぞ、お入り下さい。メルデス様がお待ちです♡』


 ギイイイイ……


 モライザ礼拝堂の重い扉が開く。3人を中へ通すと、ビアンカは外に残り扉を閉めた。


『それでは、ごゆっくり……』


 バタンッ


 ガチャ!


 ボォオオウッ!


 鍵が閉まる音と共に、再び謎の黒い炎が大扉を覆った。


「逃がしはしないということか」


 3日前に訪れた時とは明らかに雰囲気の異なる礼拝堂内の空気。今ここには、聖歌もなければ祈りもない。あるのは神聖なこの場にそぐわない、常軌を逸した光景。


 30メートル先の祭壇には、姿勢よく椅子に座り、聖書に目を落とす銀髪のイケメン神父。下着姿のゾンビの尻を撫でながら、極小ビキニ姿のゾンビにフェラチオさせていた。


『あれはレイチェルちゃんとクラーラちゃんだ。人前であんな破廉恥なことをさせるなんて……』


 エルフリーナは自分の犯した罪の大きさを改めて思い知り、静かに立ち尽くした。


「純粋な女の子の命をおもちゃみたいに扱うなんて、許せない!」


「メルデス神父……!」


 怒りに声を震わす3人に、あえて視線を向けず、優雅に聖書をめくるメルデス神父。ネル・フィードはついに、その彼の前までやって来た。


「約束通り来ましたよ、メルデス神父。いや、闇の能力者メルデス!」


 パタン


 メルデスは軽い溜息と同時に聖書を閉じた。3日前に嫌なほど恐怖を味わわされた妙な影をまとう男と、再びまっすぐ目を合わせた。


「あの日、あなたは私に『神とはなにか?』と尋ねられましたね?」


「ええ。あの時は随分と丁寧に答えて頂き、ありがとうございました」


 メルデスは右手を正面に伸ばすと手を離し、持っていた聖書を床に落とした。


 バサッ


「あれはすべて嘘なのですよ」


「嘘?」


「クラーラ、気持ちよかったです。ありがとうございました」


 チュポン


『んはあっ♡』


 メルデスはクラーラにフェラチオをやめさせ立ち上がると、おもむろにズボンを上げた。


「そういうことです。戯言たわごと、まやかし、その場しのぎ。ご理解頂けましたか?」


 ギュアアッッ─────!!


 ネル・フィードは全身からダークマターを放出し、マギラバ化!


『あなたは神父の職を辞すべきだ!』


 グアァァアッ!!


 ドウンッ!!


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオッ!!


 ネル・フィードは今までにない大量のダークマターを右手に凝縮していく。ハイエネルギーの暗黒の塊にたじろぐメルデス。


「そ、それは一体……っ!?」


 ネル・フィードは間髪入れず、取り戻した暗黒奥義を放つ!


虚無的無限破壊ヴォイド・フィストッ!!』


 ドオ──────ォォオンッ!!












 正に電光石火。


 メルデスになにもさせはしない。一撃で終わらせる。礼拝堂に来る前からネル・フィードは心に決めていた。


 あとは瀕死のメルデスからアイリッサの天使の糸でダークソウルを引っ張り出し、ブラックホールで回収。その後、アイリッサの元気ボールでメルデスを回復し、組織の情報を聞き出す。


 


 シュウウウウウ……!!



 ネル・フィードが思い描いていた通り、攻撃はみごとにヒット。メルデスの左腕は跡形もなく消滅し、追撃して完全に意識を断つのも時間の問題!


 左腕を魔法のように消し去られ、普段からクールを装うイケメン神父の顔も、さすがに苦痛で歪む!


「ぐぬっ! なんだこれはっ! なにが起きたのだっ!?」


『あなたを今から人に戻します!』


 最短決着なるか!?

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