第471話 Rainbow Shock
『
変態ストーカー女ミロッカに封印されていたネル・フィードの必殺技のひとつ。右の手の平から弾丸のように炸裂した凝縮されたダークマター。メルデスの左腕を原子レベルで破壊し、消し去った。
シュウウウウウッ!
「う、腕が消えっ……!?」
『片腕ではもう私とまともに戦うことはできないでしょう。今のうちにおとなしく、ダークソウルを差し出す決断をして下さい』
「な、なにをバカなことを!」
体を震わせ、苦痛に顔を歪めるメルデス。その姿は、映画のワンシーンではないかと錯覚するほど美しい。その場の全員が息を飲む。
メルデスに勝機はない。
そんな空気が立ちこめる中、追い詰められた彼はまるでなにかの呪文を唱えるように、ブツブツとなにかを言い始めた。
「僕ちゃんは、僕ちゃんは……絶対、なにも、なにも、なにも……」
「メルデス?」
「怖くないっ、はあ、はあっ! 怖くないっ、怖くない、怖くない! んーっ!!」
『ど、どうしたんですかっ?』
「やだやだやだやだぁあっ!! やっぱり怖いぃ! 怖いよぉおっ!!」
彼は半狂乱で泣き叫び始め、すぐそばにいた愛玩ゾンビ、レイチェルを右手で抱き寄せ、乱暴にキスをし始めた。
チュウチュウッ! チュバッ!
「ぷはっ、はあっ! 怖いよっ! 助けて、レイチェルちゃあんっ!」
『メルデス様っ!? クラーラ! 早くあれを持ってきてー!』
『分かったーっ!!』
レイチェルは発作により
『メルデス様、大丈夫、大丈夫♡』
「はあ、はあ、た、助けて……」
クラーラが小走りであれを持って戻ってきた。
『メルデス様ーっ♡ お薬ですっ!』
「はあ、はあ、これで助かる……!」
クラーラが渡したのは、バカラのグラスに注がれたメルデス本人の尿。
ゴクリ ゴクリ ゴクリッ!
いざという時の為に用意してあった自分の尿を飲み干したメルデスは、顔色がみるみる良くなり、落ち着きを取り戻した。
「ぷっはあ、はあ、はぁ、ビスキュート……」
エルフリーナから話を聞いて知ってはいたものの、やはりメルデスの尿を飲む姿にアイリッサは狂気を感じずにはいられなかった。
「ぷひー。おしっこなんてよく飲めるなぁ……ぞくっとしちゃった」
『でしょー? がぶ飲みなんだから。ゼロさんも驚いたでしょ?』
『あ、ああ、考えられないな』
(ミロッカのおしっこを舐めて、あそこを綺麗にしてあげたことがあるとは、死んでも言えやしない……)
※第327話 勝手に警備員♡ 参照。
すっかり落ち着きを取り戻したメルデス。体の震えは完全に治まり、目の焦点も合い出した。飲尿後わずか数秒で、彼は本来の冷静沈着な神父の姿に戻り、ネル・フィードに問いかけた。
「あなたは本当にネル・フィードさんなのですか? 見た目も全くの別人じゃありませんか。正直に答えて下さい」
『エクソシストの力を解放するとこの姿になる。それだけのことです』
「それを信じろと? あなたからは聖なる力など微塵も感じない。感じるのは凄まじいまでの未知の力だけです」
『そう言われても困りますね』
なんとか平静を装うネル・フィードだが、この後のメルデスの追求には、度肝を抜かれることになる。
「数時間前、私が受けた連絡の中に、脅威の能力を持つ、黒髪の異星人の女の情報が含まれていたのです」
『黒髪の異星人だと?』
「その女はJudgmentであるエミリー氏を難なく倒し、エルリッヒ氏を撤退させるほどの力を見せつけたというのです」
エミリーはエルフリーナが倒したと聞いていたネル・フィードは驚いた。
『本当なのか? リーナ!』
『あははは……かもしんない♡』
メルデスの暗く冷たい眼光が、ネル・フィードの心の奥底を見透かすように突き刺さる。
「私は、あなたもその類の存在なのではないかと思えて仕方がないのです」
『それは、ありえませんね』
その会話を聞きながら、エルフリーナは思っていた。目の当たりにしたミロッカの尋常ではない強さ。エルリッヒはそんな彼女を『異星の者』と呼んでいた。愛するゼロの変身した姿からは、その異星の者と呼ばれた女に近いものを感じると。
『ゼロさん、嘘ついてて、ごめん』
『構わないよ。なにかよほどの事情があったんだね?』
『うん……』
(言ったら殺されちゃうって事情……)
ネル・フィードは黒髪の異星人の正体が気にはなったが、メルデスとの決着を優先する。
『さあ、負けを認めて下さい。これ以上、あなたを傷つけるつもりはない』
「ふっ……」
微笑のメルデスはレイチェルとクラーラの冷たい頬に優しくキスをして、耳元で奥の部屋に行くように言った。
『メルデス様、がんばって♡』
『メルデス様、負けないで♡』
「もう心配ありません。奥の部屋でおとなしく待っていて下さい」
『はい♡』『はーい♡』
ネル・フィードと再び向かい合うメルデス。彼の目は窮地に追い込まれた人間のものではなかった。左腕を失ったにもかかわらず、謎の自信に満ち溢れていた。
「改めて問います。あなたは本当に異星の者ではないのですね?」
『アークマーダー・ネル・フィード。間違いなく、この星の人間です!』
「
『なんだと?』
不意打ちにも近い攻撃でメルデスの左腕を奪い去り、勝利を確信にまで引き寄せたネル・フィード。彼はこの直後、あまりにも信じがたい光景に、自分の目を疑うことになる!
ボボォンッ!!
シュボオオオオッ!!
メルデスの右手が突如として虹色に輝く美しい炎に包まれたのだ!
「はああああ───っ!!」
ブアオオオオッ!!
メルデスはその炎を消えた左腕の付け根に放出。虹色の輝きと共に、みるみるうちに消し去られたはずの左腕が再生されていく!
『んなっ……!?』
「ぷひーっ!! 治っちゃった!」
『なにあの炎っ!? あれがメルデス神父の更なる能力なわけっ?』
グッ グッ!
メルデスは上腕、前腕、指の筋肉に至るまで、全ての動きを細かく確認し、続けてネル・フィードに疑惑の視線を向けた。
「さて、この炎の存在をあなたは知っている。違いますか?」
『驚きはしましたが、知りません』
ネル・フィードは咄嗟に嘘をついた。異星人である彼はもちろん知っている。その炎の正体が、ここ第3ミューバを管理するアンティキティラが扱う聖なる炎……
『X』であることを。
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