第436話 生まれてはじめて

 そのバカでモテなさそうな3人組は、僕とビスキュートにブランコから降りるように言ってきた。


「俺たちが使うんだ。どけよ!」


 ビスキュートはとても怯えている。震えて泣きそうだ。ビスキュートのこんな顔を僕ははじめて見た。とてつもない怒りがこみあげる。


「お前もどけ! ガキ!」


 僕はできれば暴力を振るいたくはない。社会において暴力は犯罪行為だ。まともな人間がすることじゃない。恥ずべき行為なんだ。


「ガキって僕のこと?」


「お前しかいねぇだろ! ガキのくせにブランコでイチャついてんじゃねぇよ!」


「イチャついてなんかないよ。僕たちは会話を楽しんでただけだ」


「なんだこいつ? 生意気だな!」


 ガシッ!


 リーダーっぽいやつが僕の髪の毛をつかんでブランコから引きずり降ろそうとした。


 僕は素早くその手をひねり上げた。


「離せ。低レベル人間!」


 グイィッ!


「いててててててっ!」


「僕はお前らとは違う。なんの鍛錬も積んでいない、志の低いやつが僕に偉そうにするのは許さない」


「な、なんだとおっ……?」


 顔を見ればすぐ分かる。完全にビビってる。もうひと押しだな。


「僕はルウシアの軍隊格闘術をマスターしている。お前らみたいなザコなら100人相手にしても負けない」


「ぐ、軍隊格闘術……っ?」


「僕の父親は警視総監だ。僕が何をしても罪に問われることはない。全部もみ消してくれる」


「う、嘘つけっ!」


「ん? なら、やってやろうか?」


 ググググッ!


「いってぇ! 折れちゃうよお!」


 僕はさらに腕をひねってやった。それを見た他のふたりは、リーダーを置いて逃げていった。


「お、おーい! あいつら〜!」


「お友達は頭がいいよ。お前は僕にボコボコにされて病院行き確定。ママが泣くよ? それでもいいの?」


 僕がそこまで言って手を離すと、そいつも走って逃げていった。よかった。正直ケンカなんてしたくなかったから。


 ホッとしていた僕に、ビスキュートが笑顔で思いきり抱きついてきた。


「メルデス君っ! かっこいいっ!」


「え、え、えっ!?」


 僕は生まれてはじめてかっこいいって言われた。それも好きな女の子に。嬉しいというか、ドキドキする!


「メルデス君って強いんだね!」


「ま、まあね!」


 かわいいビスキュートの笑顔を見たら言えなかった。多少の護身術は習っているけど、軍隊格闘術なんて口からでまかせで僕はなにも強くない。お父様も警視総監なんかじゃない。ただの会社員だ。僕は生まれてはじめて嘘をついた。


 大好きな女の子に。

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