第180話 藤花 VS 杏子

「みなさんはどうしますか? 私は永遠の方舟本部に戻りますが」


 現時点で腐神ハイメイザーに太刀打ちできる術がないことを告げると、はぐれはあっさり帰ると言い出した。


「教祖様!」


「どうしました?」


「本当に私たちにはどうすることもできないのでしょうか?」


「ええ。間違いなく」


 はぐれは冷たく即答した。


『藤花、私に任せておいて。ガルトッドだのアンティキティラだの、どうせビビってなにもしやしないよ。私がキチンと片付けるから』


『俺も手伝います。ゲロッ!』


「杏子ちゃん、いくら残酷神の力でも、あれは……」


『私も残酷神の力を100%自分に落とし込んだらどうなるか分からない。でもやるしかない。完全に私の計算ミスだもん……』


『この世界を救う。元々俺もそんなことをやってみたかったんだ。ゲロッ!』


『亜堕無と威無。あの2人が日本に戻ってきた時、全て終わる。私が終わらせる。藤花は安全なところに隠れていてね』


「私だって戦えるよっ!」


 藤花がイラつき気味に杏子に食いついた。その瞬間、赤い目に残酷な光をたたえながら杏子は言い切った。


は引っ込んでて。そういう意味だよ。理解できないの? 藤花』


「あー! ザコって言ったー! むむむっ! 私は杏子ちゃんにだって負けないんだから!」


『ふ〜ん』


「私は強いよ!」


『そう。じゃあさ、かかって来てみなよッ!』


 ズバッ! ブゥゥゥンッ!!


 杏子は半身でオーケストラの指揮者のような構えを取る!


「はあああっ!!」


 ズァッボボォンッ!!


 藤花は紫の命の炎を右手に集中!


「ちょっと、2人ともやめなさい!」


 真珠が慌てて2人の間に入る。


「西岡さんどいて下さい。このわからず屋には言っても理解できないですから。自覚させないと、残酷神が『弱い』ってことを!」


 杏子は藤花を睨みつける。


『私が弱い? 藤花、頭悪くなったんじゃない? そんなしょぼい火遊びて、私は倒せないよ!』


「んもう! 馬鹿にして! バカ杏子!」


 藤花は杏子に殴りかかる!


 バキィッ!!


 杏子は避けずに藤花の拳を顔面で受け止める!


『痛くもかゆくもないんだけど』


「くっ!」


『もっと殴ってよ藤花。私はそれだけのことをしたんだ!』


「うわあああああっ!!」


 ドカドカドカドカドカドカッ!!


 藤花は杏子を殴って、殴って、殴りまくった。しかし、殴りながら分かっていた。まるでダメージは与えられていないと。


『ね? 私は強い。藤花は弱い』


「私は弱くないッ!!」


 ギュアアアッッ!!


 藤花の命の炎が剣に変わる!


「陣平流! 紅蓮龍王閃ぐれんりゅうおうせんッ!」


 バッシュウンッ!!


 藤花は杏子に斬りかかる!


『なら私もッ!!』


 ズギュアアッッ!!


 ズギュアアッッ!!


 杏子の両手から赤黒い光が迸る! それは藤花と同じく剣の形状に変化した!


 バキ──────ンッ!!


 ビシビシビシッ!! 


 二刀流の杏子は片方の邪帝剣ダークエンペラーで、あっさり紅蓮龍王閃を受け止めた!


 ボオゥッ!!


 藤花の紫炎しえんの剣と杏子の至極しごくの剣がぶつかり合い、互いを抉るように炎と光が弾け飛ぶッ!


「杏子ちゃんも、そんなん使えるんだ?」


 ゴオオオオオオッ!!


 ギリギリギリギリッ!!


『瞬間的に藤花のを真似ただけ。残酷神にできないことはないッ!!』


 バシュウ──────ンッ!!


 杏子が藤花の剣をへし折った!


 そして、すかさず、もう片方の剣を藤花の喉元へ突きつけた。


 シャキィンッ!!


「うっ!」


『はい。藤花のザコ決定♡』


「こ、これが残酷神の力……」











 藤花は杏子の身を案じ、杏子は藤花の身を案じた。その結果の出来事だった。


『だから安全なとこにいてね、藤花。私とフロッグマンでなんとかする』


『ゲロゲーロッ!』


「で、でもっ……!」


『じゃあね、藤花。愛してる♡』




 グアゴゴゴゴゴゴゴッ!!



 杏子とフロッグマンは、ディメンショナル・ドアをくぐり去って行った。

 

「あの子、やっぱりなかなか頑固ね」


「そうなんです。でも本当に驚きました。牙皇子が杏子ちゃんだったなんて……」


「でもこれでゼロワールドの脅威は去ったわけね。ハイメイザーさえいなければ、終わってたのに」


「私たちも帰りましょうか。風原さんの所に……」


「そうね。美咲のこと、伝えにくいわ……」


 はぐれは帰る素振りを見せながら、改めて藤花と真珠に注意を促す。


「ハイメイザーは私や残酷神さんでも難しい相手です。あなた方では確実にやられますから。おとなしくしていて下さい」


「は、はい」


「わ、分かったわ」


「では、失礼します」


 はぐれを見送った藤花と真珠は、風原家に戻ることにした。悲しい知らせをしなくてはいけない。ふたりとも胸が苦しかった。

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