残酷のネル・フィード

第304話 ストリートファイター

　ダークマターを引き裂く、強力なホラーバッハの闇の能力。正に制空権を握られたといった状況にネル・フィードは驚愕しつつ、覚悟を新たにした。

　ズオオオッ！

　ホラーバッハの動きに全神経を集中しながら迅速に肉体の再生を計る。

「へえ、再生可能なんだ。気色悪い」

『余裕だな。私に肉体再生の時間を与えるとは……』

　ギュアアッッ！

　ネル・フィードの体は数秒で元通りに再生した。

「余裕？　いやいや、僕があんたを殺すことは決定事項なんだ。もはや変更は許されない。社会人として速やかに責務をまっとうするのみなんだ」

　ホラーバッハは再び左手をマギラバに向け、不敵な笑みを浮かべる。それはある確信に満ちたものだった。

「あんたは今から僕の放つ攻撃で、この世から消え去るだろう……」

　そうホラーバッハが言い終えるのとほぼ同時に、ネル・フィードは両腕から凝縮したヒート・ダークマターのエネルギーを最大出力で一気に放出したッ！

『極熱暗黒聖剣斬撃（ダーク・バーニング・エクスカリバー）────ッ！！』

　ゴオオオオオオウッ！！

　ズバッシュウンッ！！

　ホラーバッハは独特の構えでダークソウルを防御に全振りする！

「だあっ！　冥血悪魔障壁（ブラッディ・ウォール）ッ！！」

　グオオオオオッ──────！！

　ドォォォオ──────ンッ！！

　ビシッ！　ビシッ！

　ネル・フィード渾身のエクスカリバーは、ホラーバッハの悪魔の血の壁を崩すことはできなかった。

　ビシ……ビシ……！

「鉄壁の冥血悪魔障壁（ブラッディ・ウォール）がヒビだらけだ。あんたのその力、悪魔の力じゃないならなんなんだよ？　ぶっ飛びすぎだ」

　ガシャン！　バラバラ……

　音を立てて崩れ去る冥血悪魔障壁（ブラッディ・ウォール）に、ホラーバッハは信じられないといった表情だった。

『だあ─────ッ！！』

　ギュアアッッ！！　ドヒュンッ！！

　その一瞬の隙を突き、ネル・フィードは正面からホラーバッハに殴りかかっていったッ！！

　ブンッ！　パシッ！　スカッ！

　ブンッ！　ブンッ！　スカッ！

　しかし、その攻撃はいなされ、かわされ、空を切り続ける！

「この僕にそのレベルの打撃は通用しない。本物の打撃はこうするんだ！」

　ドゴォッ！！

『うがっ！！』

　ズドォッ！

『がはっ！！』

　ホラーバッハの鋭いパンチがネル・フィードのキレのない攻撃の合間を縫って的確に急所を捉えた。それはもう天性の格闘センス以外のなにものでもなかった。

『がっ！　はあっ、はあっ！』

「僕は殴り倒す、蹴り飛ばす、へし折る、締め落とす。ぜんぶ大好きなんですよ。若い頃、ストリートファイトでその実力を磨いていましたからね」

　ギュアアッッ！！　

　追い詰められたネル・フィードは、ダークマターの刃を纏わせた鞭をしならせる！

『冥闇黒旋牙（ダーク・スパイラル・クロー）ーッ！！』

　ギュルルルンッ！　

　バシィッ！！　ギュルンッ！

　ビシンッ！！　バシュンッ！！

　バサァッ！！　

　ギュンッ！　ギュンッ！

　ホラーバッハはその強烈な鞭の変則的な軌道をも黒翼の羽ばたきで容易にかわしきるッ！

　ガシッ！　ググググゥッ！

『あっがああ……ッ！』

　一瞬で背後に回り込んだホラーバッハは、ネル・フィードの鞭を持つ右の手首を捻り上げ、醜悪な笑みを浮かべた。

　ググググッ！！

「あんたがどんな誇りを胸に戦っているかは知らないが、死んだ方が楽だという感覚に、そろそろ陥らせてあげるよ……！」

　グリンッ！！

『ぐおああああ──────ッ！！』

　ネル・フィードの絶叫が響き渡る。