第384話 ネオ・ブラック・ユニバース
『私を連れて帰る』
そう言って、私を見るお母さんの目が怖い。実の母親というだけで、何も考えずに家に上げてしまった自分の警戒心のなさに嫌気がさしていた。
「そ、そんなのお父さんが許さないと思うし、私はここで暮らすもん」
この前、たまたま見たワイドナで知ったネオ・ブラック・ユニバースという宗教団体。有名大学卒の若者を中心に、信者を増やしているって言ってた。
「そうかなー? お父さんはきっと許してくれると思うんだけどな」
お母さんも、実はルベリンの超有名大学の出身。頭の悪い人じゃない。ネオブラには、そういう人たちを惹きつける何かがあるのかも知れない。
ガチャ
「あ、お母さんが帰ってきたよ」
「みたいね」
お母さんは、玄関の靴を見て、大体を察して部屋に入ってきた様子だった。
「お母さん、おかえり」
「ただいまー。エヴァさん、こんにちは。できればここへお越しになる時は、事前にご連絡下さいますか?」
「お久しぶりね、レイナさん」
さっき約束したって言ってたのに、嘘だったんだ。やっぱり、ネオブラに入信しておかしくなっちゃったのかな。
パタン
新しいお母さんは、買ってきた食材を冷蔵庫にしまうと、前のお母さんとテーブルを挟んで向かい合って座った。
「アイリッサちゃんはお2階に行っててくれる?」
「う、うん」
2人が何を話すのかとても気になったけど、私は言われた通り、2階の自分の部屋に戻った。
ピポッ
『アイリッサ、今 誰が来たの?』
トンちゃんが話しかけてきた。さっきのインターホンの音を聞いてたんだね。
「前の、お母さんだよ……」
『家にあげちゃったんだ? これは修羅場かな? ぷひー!』
「あげちゃったよ。どうしよう?」
『前のお母さんは何をしに来たの?』
「私を連れて帰るって。しかもモライザ教を抜けてネオ・ブラック・ユニバースってヤヴァい宗教団体に入っちゃってるんだよっ!」
ピポッ
『ネオ・ブラック・ユニバース……ぷひぷひぷひぷひ……ぷひーっ!!』
トンちゃんは、初めて聞く単語を検索して知識として上書きしていく。その情報量は、完全網羅と言っても過言ではない。
「トンちゃん 助けてよ。どうしたらいいの?」
『ネオ・ブラック・ユニバース。教祖セレンが1年前に立教した宗教団体。宗教理念はアウフヘーベンによるペシミズムからの脱却。現在、9件の刑事裁判を抱えている。その全てが逮捕、監禁の容疑によるもの』
「ヤヴァいじゃん! わ、私もそんなんされちゃうの? やだよっ!」
『しかし、教団施設パンドラから帰らないのは、信者本人の意思であり、教団はなんの強制もしていないと主張。検察の訴えを完全に否定している。ぷひー』
「カルトが言いそうなことじゃん」
『そして、ネオ・ブラック・ユニバースの悲願、それは人類をハイメイザー化すること。ぷひー』
「ハイメイザー? なにそれ?」
『それは僕にも分からない。ぷひー』
「そりゃあトンちゃんにも分からないことだってあるよね……」
『アイリッサ、1階に戻ろう。新しいお母さんが危ないかも知れない』
「わ、分かった! 怖いけど……」
私はトンちゃんを抱いて、静かに1階に降りていった。
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