第193話 bad habit
「ふたりとも、笑ってませんか?」
正男は肩を震わせる藤花と真珠を見て不思議そうだった。
「大丈夫ですっ!」
「アンティー、気にしないで! ねっ?」
そう言われ、正男はアンティキティラであるドスグロに目を向けた。
背は185センチ。髪は透き通ったクリーム色。やはり目は赤く、色白の肌。韓流アイドルの様な美しさ。
『どうもっ♡ こうやってちゃんと話をするのは初めてだおね』
「えっ?」
『その腕のガリメタを施したのはこの僕。過去の2回ともそうなんだお♡』
ドスグロは頬を赤らめ、頬に手を当てながら言った。
「あなたが私にこの歯車のタトゥーを? そうでしたか。こうやって話せて光栄です。過去の2回も意識がほぼなく、初回は少しだけこの力についてお話して頂いたと思いましたが……」
『そうだったね。アンティキティラについて少しだけ話したおね』
「手の指は『触手』の様だったと思ったのですが。今拝見すると我々人類と変わらないですね」
ドスグロの手には触手ではなく、5本の指があった。
『あれキモかったでしょ? ガリメタを施す時にはね、指を変形させる必要があるんだおねー』
「そうでしたか。この腕の歯車は正式には『ガリメタ』と言うのですね。なんという素晴らしいテクノロジーだ」
ドスグロは正男のその言葉に機嫌を良くし、ガリメタについて語り出した。
『Xはミューバの人体にはかなり刺激が強いんだ。だからガリメタにコーティングして1度ミューバ人に注入する必要があるんだお♡』
「それは私の体内でアンティキティラの力を地球人に適した状態に落ち着かせる為ですか?」
『そうなの♡ あなたの体内で『ミューバ人仕様のX』として変化させてたわけ。24時間でその行程は完了よ♡』
「敢えて『力の授け方』などを教えなかったのは、その為?」
『変化完了前に誰かの手を握ったりしてXが流れ込んだら、即死もあり得るからね』
「やはり そうでしたか」
『でも、それも含めて話せばよかったとも思うよ。研究者としての悪い癖が出たのかも知れない』
「悪い癖ですか?」
『あなたがガリメタの使い方にいつ、どんなシチュエーションで気づくのか、データを収集したかったの♡』
「私は試されていたのですね」
『でも、ずいぶん前から腐神最強レベルのパワーが徐々に膨らみ始めていたのも事実』
「残酷神か。5年前から地上にいたわけですからね」
『そうね。でも結果的にいいタイミングで戦士が誕生していってくれたから満足してたお。自分なりにいい仕事ができたと思った♡』
「フロッグマンや残酷神もほぼ同時に動き出しましたからね。タイミングは本当にバッチリでしたね」
『でも、ひとつだけ驚いたデータがあったんだおね』
「何がですか?」
正男はなんとなくドスグロが何を言いたいのか分かり、動揺した。
『ここまで文明が栄えても、ミューバ人は力を得ると『同族を積極的に殺し始める』という新たなデータが取れたことだお』
『ブラック・ナイチンゲール』
娘の美咲が悪人掃討の為に立ち上げた闇の組織。それがブラック・ナイチンゲール。正義の名の下に、時には小悪党すら抹殺の対象としていた。
「そ、それは……」
『ミューバ人は脳があまり発達していないのかも知れないね。ここまでの社会を築き上げても、未だに強大な力を得ると殺戮に走ってしまうなんて』
「そ、それは娘が……」
正男がなんとか誤解を解こうとまごついていると、真珠が口を開いた。
「そうね、私はそうだったかも知れないわ。完全に私利私欲、遊ぶ様に殺していたもの」
『シンジュ……』
「でも、他のメンバーは違う。立場の弱い人、裁判で不当な判決を下され涙した人、そんな人達から依頼を受けて根っからの悪者を排除していたのよ」
『依頼? そうなのか?』
「その為に『この力』と『残りの命』を使っていたの。だからバカではない。バカは私だけよ」
『バカと言ったつもりはないんだ。単なるデータとして述べたに過ぎない。仕事上の悪い癖だ。気分を害したのなら謝る』
「私はいいの。他の仲間は腐神との戦いで命を落としてるし、侮辱されたくないわ」
『すまない。言い方に配慮が欠けた』
そう言ってドスグロは頭を下げた。
「いいのよ。分かってくれれば。ドスグロさん、あなたいい人ね」
正男は真珠と目を合わせた。真珠は軽く微笑んでいた。
「西岡さん、ありがとう」
「いいえ」
『ふがあっ! ん? ドスグロ? 戻ったのか。うー……よく寝たのだ』
ナナのお目覚めである。
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