第22話 ブラック・セラフィム

『髪色の能力』


 風原美咲の深緑しんりょくの髪は人の善悪を見抜く。続けて藤花は、憧れの天使イバラの美しい金色の髪をじーっとみつめた。


「はぁ……♡」

(サラサラ、キラキラ、か、嗅ぎたい♡)


 元々アイドル『満開のSAKURA』のセンターだったイバラの髪は美しい黒髪。それが今は目がくらむほどに光り輝く金髪。


 藤花はイバラ先生に質問した。

 

「はいはーい! イバラちゃんのその金髪は一体どんな能力なんですかっ? 気になりまーすっ!」


 イバラ先生は輝く金色の髪をかわいらしく指にクルクル巻きながら、上目づかいで答えた。


「この髪の能力? そ・れ・は……光速移動だよんっ♡」


「光速移動!?」

(神々しいイバラちゃんらしいーっ! 正に光の天使♡ ありよりのありーっ!)


「でも20メートルぐらいしか移動できないんだよねー。1回使うとインターバルも必要だしー」


「十分すごいよっ!」


「藤花をあのカエルから助けたときは、光速移動を使って思いっきり蹴りをお見舞いしてやったもんね!」


「確かに! ピカッと急に現れてびっくりしたもん!」


「私はJKがおしっこ漏らしてるのを見て、超びっくりした!」


「イバラちゃん……超いじわる」


「はいはいっ! そのへんにして! 他に聞きたいこともあるんじゃないのかい? 黒宮さん」


「あっ、そうでした! この服! いつの間にか着てたんですけど!」


 藤花は部屋着で家を追いだされていたのだが、現在はイバラと同じく、黒を基調とした奇妙なデザインの服を着ていた。


 インナーは柔らかいような硬いような不思議な材質で、体にピタッと吸いつくようなここちよさがある。


 その上にはスタイリッシュなジャケット。腕の部分には白いラインでXとも見て取れる紋章が描かれている。袖口と襟元には鮮血のような赤色で、細かい幾何学模様きかがくもようがデザインされていた。


 赤いベルトのバックルには軍旗を模したエンブレム。そして、伸縮性のある生地で作られたミニスカートは割とタイトめな膝上10センチ。


 足元には頑丈な軍靴を彷彿とさせるブーツ。足首部分は自動的にしっかりと固定され、靴の側面には金属製の装飾が美しく施されている。堅牢さと機能性が抜群なことが動く必要もなく伝わってくる。藤花の見ためは、異世界の戦士感満載になっていた。


 イバラが、その謎のコスチュームについて話し始めた。


「通称ブラック・セラフィム。アンティキティラの力をもらうと同時にこのコスチュームも頂くことになるの。私はなぜかスカートじゃなくてパンツなんだけど」


「わ、私こんな短いスカート嫌だしっ! イバラちゃん交換しよっ!」


「それが無理なの。これ、普通に脱げないもん」


「ええっ?!」


「こうやんのっ……!」


 そういうと、イバラはさっきマンションのお仕事で見せた、青い炎を全身から放出した。


 ブアオオオオッ!!


「はっ!」


 プシュウッ!!


 空気が抜けるような音と共にその『黒いコスチューム』は消えた。


 そして、水色の Tシャツにチェックのミニスカートのイバラが現れた。


「こういう感じ。みことの炎を使って、着たり脱いだりするの。やってみれば超簡単だよ」


「へ、へぇ……」


「たぶん、私にアンティキティラの力をくれたエイリアンの世界の戦闘服だと思います。両腕のXのような紋章。それにも何か意味があると思うのですが」


 と、アンティキティラは言った。


「かわいいようなダサいような、てゆーか、この服を着ないとダメなんでしょうか?」


「藤花さん! ブラック・セラフィムを着てないと、アンティキティラの力に体がついていかないよ」


「そうなの?」


「美咲の言う通り、普段着で光速移動したら思いっきり転んじゃってね。みことの炎も熱くてブラック・セラフィムを着るとき以外は使えないの」


 藤花はさらに疑問をぶつける。


「そのエイリアンって、ひょっとして腐神が現れることを予知できていたってこと? もしくはのかな? こんなすごい力をこのタイミングで私たちに与えるなんて」


「力だけ渡して、あとは高みの見物だもん。悪趣味もいいとこよ。結局は楽しんでるだけじゃないの? その宇宙人ーっ!」


「神と人間の痴話ちわ喧嘩げんか。お手並み拝見って思ってるのかも知れないなぁ。ぷはぁ」


 風原かざはら正男まさおはビールを飲み干した。

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