第381話 甘ったれんな
アイリッサがルーム19に戻ってきた。そして、ソファーに座る2人をなんとも言えない表情で見つめていた。
室内の時が一瞬凍った。
「アイリッサさん……」
「やっと見つけた。それと隣にいるのはどういうわけかさっきの車椅子のブス子じゃん。事情を説明して下さいよ。ネルさん」
「マリー、話してもいいかい?」
「……うん」
ネル・フィードはアンネマリーの生い立ち、闇の能力者になった経緯、美女行方不明事件の真相、メルデスの本性、それらを順番に話していった。
「……と、言う訳なんだ」
話を聞き終えたアイリッサは、壁によさりかかってアンネマリーを見た。
「エルフリーナの正体が、まさかこんなお子ちゃまだったなんてね。母親に殺されかけ、小学生の頃から売春。なかなかエグい人生だったんだね」
「周りの大人がもっとちゃんとしていればマリーは悪魔の力なんて必要としなかったはずなんだ」
「あっ、それとメルデス神父も闇の能力者だったんですね。驚きました」
「悪いが私は最初から怪しいと思っていたよ。あの目は人を殺してる。そう思った」
そこまで聞くとアイリッサは右手に力を込めた。光り輝くその手から伸びる、これまた光り輝く1本の天使の糸。
シュルルルン! キラキラ☆
「じゃあ、ネルさんも準備をお願いします」
「えっ?」
「ブラックホールですよ。私がダークソウルを引っ張り出すので吸い取って下さい」
「アイリッサさん、ちょっと待ってくれますか?」
「どうしたんですか?」
「この子は1日に2時間しか能力が使えない。たぶん天使の嗅覚で悪魔の臭いが捉えきれなかったのもそのせいだろう」
「あー、はい」
「私は今、マリーのダークソウルを抜き取りたくないんだ」
「なんでですか? その子は何人も人を殺してる。闇の能力者ですよ」
「分かってる。だが、この子には死ぬ前にちゃんと愛を知ってもらいたいんだ」
「愛ですか……」
「聞いた通り、マリーの育ってきた環境はあまりに劣悪だった。心が腐るには十分過ぎた」
「ええ、はい」
「マリーはダークソウルを抜くのと同時に死んでしまう可能性もある。だから待って欲しい」
「なるほどー。愛を知らずに死なせるのは可哀想だという事ですね?」
「そうだ」
「でもネルさん、6月6日まであと3日。その3日間で何ができるの?」
「え?」
「6月6日にはパウルを倒すんですよね? そうなれば能力者のエルフリーナも同時に消えると思うんですよ」
「そ、それは……」
「ピンクローザさんなんて、パウルの事を話しただけで消されましたよね?」
「た、確かに……」
「その子は敵じゃないんですか? ネルさんを襲う事はもう絶対にないんですか? にゃんにゃんして仲良くなったんですか?」
「にゃんにゃんて……」
それまで黙っていたアンネマリーが口を開いた。
「てめーっ! ゼロさんに生意気な口聞くなッ! 邪魔くさいんだよっ! 出てけよッ!」
ギュルルルルルルルルッ!
ググググウッ!
「はい。捕まえた」
「うわぁっ! なにこれっ……!」
「アイリッサさん! 待ってくれッ!」
アイリッサが天使の糸をアンネマリーに放出ッ! ダークソウルをロックしたッ!
「マリーちゃんさ。甘ったれんのもいい加減にしなよ」
「ざっけんな! どいつもこいつも幸せそうな顔しやがって! 全部勘違いなんだっ! 思い知らせてやるんだあーっ!」
「あんたよりも不幸な人間はいないとでも思ってる?」
「いるもんかっ! 特にお前みたいなかわい子ぶった女は不幸な目に遭った事なんてないに決まってるッ!」
ググググッ
アイリッサは天使の糸の力を緩める事なく言った。
「私が10歳の時、両親は死んだ」
「な、なにそれ……」
「アイリッサさん?」
「あの日の出来事は、今でも目に焼きついてる……」
アイリッサの過去、それはアンネマリーとは別の意味で驚愕だった。
人生を変えるHエルフリーナ編 完
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