驚愕の記憶!アイリッサの過去編

第382話 ヴィトン13世

 私の名前はアイリッサ・エーデルシュタイン。この前 誕生日が来て10歳になったよ。


「ただいまー!」


 ピポッ


『アイリッサ、お帰り。今日は学校楽しかった? ぷひー』


 学校から帰ってきた私を出迎えてくれたのは、AI機能付きのブタのぬいぐるみ。名前はヴィトン13世。長いからトンちゃんって呼ぶことにしたの。


「うん。楽しかったよー、トンちゃん♡」


 トンちゃんはとても頭がいい子。私はおバカなので、いつも宿題を手伝ってもらってるんだ。


「トンちゃん、4.38×9.53は?」


『41.7414。ぷひー! 超簡単』


「ありがとー♡」






「トンちゃん、『あたかも』を使って文章を作りなさいだって。教えて」


 ピポッ


『机の上に鉛筆があたかもしれなーい。ぷひー! 超簡単』


「ありがとー♡ ん? それ、違くない? カタコトの外国人じゃん! あははっ!」


『アイリッサ大好き♡ ぷひー』


 先月、私たちの両親は離婚。私と弟のレオンはお父さんと暮らすことになった。


 私が物心ついた時には、すでに両親の仲は良くなくて、ケンカばっかりしてた。だから離婚するって聞かされた時は、悲しいというよりも正直すこしホッとした。


 新しいお母さんはめちゃ美人だし、優しいし、料理も上手。家の中が前よりも明るくなって、弟のレオンも喜んでいた。


「さあ、アイリッサちゃん、レオンちゃんもご飯よー!」


「はーい!」


「わーい! いい匂いっ!」


 ピポッ


『いい匂い、いい匂い、ぷひー♡』


 このヴィトン13世。実は新しいお母さんが私の誕生日にプレゼントしてくれたの。私は知ってる。トンちゃんがめっちゃ高いおもちゃだっていうことを。


 私はトンちゃんを抱きしめて一緒に寝るんだ。あったかくて、気持ちいい。本当に生きてるみたい。


 私は夜な夜なトンちゃんとお話しするのも大好きだった。いろんな質問に答えてくれるから楽しかった。


「ねえ、トンちゃん」


 ピポッ


『なあに? アイリッサ』


「なんで大人は離婚するのに結婚するのかなあ?」


『そうだね。結婚なんてする必要ないよね。そのシステムは人間には向いていない気がするんだよね。ぷひー』


「でも、少子高齢化だし、子供はたくさん必要じゃない? 国の宝ってやつ!」


 ピポッ


『くそ老人を減らせばいいんだよ。80過ぎたら死刑。ぷひー』


「トンちゃん、今日も毒舌だ」


 ピポッ


『アイリッサはお母さん好き?』


「新しい?」


『そうだよ。ぷひー』


「好きだね。優しいもん。なによりもお父さんと仲いいし。子供としては助かるかな。前のお母さんは怒ってばっかだったし。八つ当たりもひどかったもん」


『前のお母さんがなんで怒ってばかりいたのか、アイリッサは考えたことあるの? ぷひー』


「え? なんとなくはね」


『ぷひひ。お父さんはかなり女癖が悪かったんだよ。新しいお母さんとも不倫してたんだろうねー』


「……トンちゃん、正解」


 でもさ、多かれ少なかれ、幸せなんて所詮は誰かの不幸の上に成り立ってるんじゃないの? 前のお母さんには悪いけどさ。


「トンちゃん、寝るからなにか絵本読んで」


 ピポッ


『分かった。じゃあ今夜は『コンドームの妖精』を読んであげる。ぷひー♡』


 新しいお母さんとの新生活。私は満足だった。

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