第16章 嵐が来る

第105話 エクレアさん

「私はあなた方と行動は共にはしません。気が向けば戦地に赴きます。その程度の存在に留めておいて下さい。では、失礼します」


 弥勒院はぐれはそれだけ言うと、フードを被り、本部の中へと戻って行った。


「教祖様……」



『永遠の方舟』



 それはカテゴリー2の異星人による教祖様遊びだった。


 だが、長年に渡る教祖生活の中で、その異星人の中には新たな感情が生まれていた。


 『この人類の未来が見たい』


 こんなバカはいない。それは本人が一番分かっていた。


 いずれ訪れる世界の終わり、その時に選ばれる『救われる者』になる為の教え、思想をもたらす。それが永遠の方舟だった。


 くしくも、今がまさにその時。


 信者の祈る姿、従順さ、そして笑顔。それらに20年触れてきた。柄にもなく『本当に信者を救いたい、守ってあげたい』その異星人はそう思っていた。


 なんの徳もありはしないのに。






















 とある都市のビルの高層階。

 『ゼロワールドの本拠地』






『キリリリッ! 牙皇子様。斬咲、今戻りました』


『おかえり斬咲。魔亞苦・痛はダメだったようだね』


『あれはポンコツですねー。永遠の方舟の信者を殺すという掟破りを平然と犯しましたので、私が始末しておきましたよー』


『ありがとう。で、ブラック・ナイチンゲール、殺れそうか?』


『問題ないと思いますが、ひとりだけ群を抜いて強力なパワーを持っているヤツがいるんですよ』


『例の赤い髪の女か?』


『はい。ライノマン、魔亞苦・痛、どちらもその女にやられたようなものですから』


『では明日、フロッグマンと組んで全滅させ……』



 ガチャッ!



『お待ちください!』





 ビリッ! ビッ! ビリリッ!



 部屋の扉を開けて入ってきた、全身に稲妻を宿す長い髪の女。


『なーに? エクレアさん、どうしたの?』


『どうしたの? じゃ、ありません。明日は私を斬咲と行かせて下さい』


『えー! どうしよっかなぁ。明日も全身マッサージをしてもらおうと決めてたのになぁ』


『私を『低周波治療器』扱いしないで下さい! その為の電撃ではありませんので。ライノマンの時も我慢したのですから、そろそろ……』


『そうねぇ。じゃあ、早く帰ってきてね! で、マッサージ♡』


『はぁ。分かりました……』


『じゃ、とりあえず今、肩揉んで!』


『は、はい! 分かりました』






 ビリビリッ! ビビビビーッ!!


『ああー♡ 効くぅーッ!!』



『キリリリッ! 牙皇子様はマッサージが本当にお好きなんですね♡』


 牙皇子狂魔を電気マッサージする、腐神『羅苦雷らくらい』との契約者『エクレア』


 ついに明日、斬咲と共にブラック・ナイチンゲールと戦える喜びに打ち震えていた。


(待っていろ。ブラック・ナイチンゲール。明日は全員消し炭にしてやる! キャハハァァ!)


『エクレアさーんっ! もーちょっと強くしてーっ!』


『は、はいっ! すみませんっ!』


 ビッ!! ビビビビーッ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る