第50話 ヘドロ

「後ろに何かいるぅ───ッ!」


 藤花のその大きな声に、3人一斉に振り返った!


「げっ!」


「後ろお!?」


「わわわっ!」


 ボボォオォオオウッッッ!!


 バッッ!!


 命の炎を全身にまとい、それと同時に距離を取り、防御体制に入るっ!


 3人の目の前には茶色の泥の様な物体がうごめいていた。その大きさ1.5メートル。


 ボコボコッ……ヌチャヌチャ!


 スタッッ!


 藤花も着地!


 ボオオオウゥッッッ!!


 皆と同じく、命の炎を纏う。


「こ、これが? 腐神っ!?」


「動く泥ねえ……」


「激しくキモいっ!」







「はああああーッ!!」









「と、藤花っ!?」







 ブアボオオオオウゥ!!











「先手必勝ッ! 『変幻自在 つるぎ』ッ!!」



 シュボオオオッ!


 ギュアアァァッッ!!


 藤花は命の炎をつるぎに変化させ、そのうごめく泥に切り掛かったっ!


「でやぁぁぁあっっ!!!」


 ジュバアッ!!


 ベッチョッ!! ベチョッッ!


 泥は真っ二つに引き裂かれた。


「くっ……!?」

(手応えが、ないっ!!)


『ヘッヘッヘっ。いやぁ、痛いなぁ。なんちゃってっ!』


「ど、泥がしゃべったーっ!」


 ドロドロッッ!


 ベチャ! ベチャッ!


 引き裂かれた泥が、みるみるくっ付き、元の形に戻っていく。そして、徐々に人らしい姿に変化。


『よいしょっと。どうも!』


 4人の前に現れた、衣服を纏わぬ泥色の『人の形』をした生命体。


「これは腐神、確定ねっ!」


 ボォウッ!! シュウウウウッ!


 イバラは、いつでも攻撃できる体勢に入るっ!


『へっへっ! そっちこそ、白雪を消したやつ、確定ってわけだ』


「あははっ♡ ぱっと見は、田んぼに落ちて、泥まみれになったお兄さんね」


『なんとでも言え。デブばばあ。俺は腐神『底無死そこなし』と契約を交わしたヘドロ。お前らは生かしておかん」


「デブばばあ? ねえ、それ私のこと?」


 いつも笑顔の真珠の顔が、みるみる真顔になっていく。


『お前しかいねぇだろ。他はみんなピチピチじゃねえか。お前だけ、ぶよぶよの豚だあっ! くせぇ、くせぇ!』


 ヘドロのその一言は、まさに油。真珠の怒りの炎を、高く燃え上がらせた。


「あんたさぁ、童貞でしょ? そういう臭いがプンプンするわッ!!」


『なっ!? うるせぇぇええッ!!』


「いけっ! メデューサァッ!! 腐神を喰い殺せぇぇえッ!!」


 ボボォオォンッ!!


『シャアアッ!』『シャアアッ!!』


『シャアアアッ!!』『シャアッ!』


『シャアアアアアッ!!』


 メデューサが、5匹まとめてヘドロに牙を剥き、襲いかかるっ!


『おおっ! なにそれっ! かっこいいじゃんッ!』


 ジュボンッ! ジュボンッ!


 ジュボッ! ジュボッ!


 ジュボンッ!


「あれっ? なんでっ!?」


 メデューサはヘドロを貫通。体に穴が開き、多少 焦げ付くものの、ダメージは与えられていないッ!


『お前たちは火遊びが好きなんだな。そうか! その火で、白雪はやられたわけか。実力というよりは、能力の相性に救われたようだな』


「くっ……!」

(この泥腐神バカじゃない。そして、物理攻撃は無意味。どうすればっ……)


 藤花は、思いついた作戦を、テレパシーでイバラに伝える。


『イバラちゃーん!』


『あ、藤花。どうしよう……』


『イバラちゃんのブリザードでさ、凍らせちゃお! そしたら粉々にできるんじゃないっ?』


『そっか! や、やってみるねっ!』


 イバラは、右手に命の炎を集中っ!


 シュボオオオオオォォォッ!!


『青い炎か。それはなんなんだ?』


「腐神ッ! ブラック・ナイチンゲールの名の下に、天使イバラ! 貴様を処刑するッ!」


「あっ♡」

(イバラさんが、私の考えたセリフをちゃんと言ってくれてる! 激しく感動なんですけどっ!)


『そんなちんけな炎では、俺は燃えないんだぜ……!』


「油断しすぎよっ! 腐神ッ!」


 ブアボオオオオォォォッ!!


 イバラの冷気の火炎噴射フレイムジェットっ!!


『なっ!? こ、凍るっ!?』


 バキバキッッ!!


 バキバキキキッッ!!


 ヘドロが勢いよく凍りついていく!


『くそ……なんだ……これ……』


「じゃあねっ! さようならっ!」


 イバラは拳を握りしめた。


 グッ!!


 ガッシャアア────ンッ!!!


 凍ったヘドロは、粉々に砕け散り、蒸発。見事に消え去った。


「やったぁ! イバラちゃんが、また決めてくれたよーっ!」


「童貞くそドロ野郎も、凍ったらさすがに砕けて死ぬわよねっ♡ あー、なんかスッキリしたわっ!」

















『へっへっへっ! 誰が死ぬって? 決めつけてんじゃねえよ……』


「なんでよっ?」


「そんなっ……!」


「しつこい男は嫌いだわ」


「あれじゃ、激しくだめなんだ……」


 ジュワワァァァァ……


 勢いよく水蒸気が集まり、再び泥となりヘドロ復活っ!


『今度はこっちの番だぜ。ヘヘッ!』


 この状況、さすがの天才少女、黒宮藤花も混乱し始める。


「ど、どうしたらっ!?」

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