第40話 いい湯だな

「ほれほれ! 2人ともっ! そこそこ広い風呂じゃっ! 2人いっぺんに入ってしまいなさいっ♡」


 陣平の顔のいやらしさは、ハンパではなかった。



『このじいさんは、何かやる!』



 言葉を交わすことなく、2人の意見は一致した。


「私たち、交代で入ります」


「ぐっ……ぬぬぬ!」

(のぞけないにしても脱ぎたてのパンティーぐらいはおがませてもらおうと思ったのにっ! 勘付かれたか。なぜじゃ?)






 まずはイバラが入ることとなった。シャワーで昨晩からの汗を流す。



 シャ──────────!



















(さっきの夢。なんなのよ。『死にたくない』とか。私はもう覚悟はできてる。死ぬのなんて怖くないんだから!)










 シャアア──────────!

















「はあっ……」































 ザバ──────ッンッ!











「あー♡ めっちゃ気持ちいいっ!」



 イバラは湯船に浸かった。昨日の腐神との戦いの疲れが、じんわりお湯に溶けていく。












 ちゃぽ……












 ちゃぽ……














(私は美咲に選ばれて、いま元気に動けてる。だから、感謝の気持ちも込めてブラック・ナイチンゲールに入った)






 ちゃぽ……






(そして、躊躇ためらうことなく仕事をした。私が死ぬまでの短い期間で少しでもこの世から悪人を抹殺して、苦しんでる人の為に……)























 本当にそう? 違わない?














 あなたは人を殺す時、別の感情があるんじゃない?










(な、なにっ? 誰っ?)











 自分は夢なかばで死ななくちゃいけない。だからこんなクズ、長生きなんてさせない。道連れにしてやる。そんな気持ちで殺してるよね?








「そっ、違うっ! 私は心から!」










 死への不安、恐怖。




 愛する人との別れ、悲しみ。

 

 嫌で嫌で仕方がないんだよ。


 












 死ぬことがさ。


 誰だって嫌に決まってるよね。


 この若さでさぁ。 








(やめてっ! やめてっ! 誰なのよっ? 黙ってよ!!)










「はぁ、はあっ!」


 イバラの頭の中に響く声。


 それは自分自身の声。


 それ以外の何者でもない。


「わ、私はこの残りの命、完全燃焼する。ゼロワールドの好きになんてさせない。ママの生きるこの世界を守ってみせる。絶対に負けない。この運命にもっ!」








 ザバッ……!!




 イバラは再び強い自分を奮い立たせ、風呂を出た。体を拭き、頭を乾かし、洗濯機から下着を取り出した。


「乾燥機付きのいい洗濯機があってよかったぁ。陣さんは絶対コレ狙ってたもんねー。あぶない、あぶない」




 続けて、藤花も風呂に入った。









 シャ──────────!











(昨日のお母様、怖かった。私が方舟様の神棚にひどいことをしたから、仕方がないけど)



 ちゃぽ……



(お母様が毎日 聖水を取り換え、お花を飾り、ほこりが溜まらないように日に3度は掃除をしてた。水晶玉もピカピカに磨いて、和室は神聖な場所だった。私がそれを……)
















 シャ──────────!!














(だって! 方舟様は杏子ちゃんを助けてくれなかったんだもん! 死んじゃったんだもん!)


(なのにお母様は『だから?』って、ひどいよ。あんなお母様は嫌いだよ!)


(方舟様のことをそれでもまだ信じている自分はいる。だけど『あんな人』にはなりたくないっ!) 


(家を追い出されて余命は3ヶ月。自殺をイバラちゃんに救われて、ブラック・ナイチンゲールに入って腐った神退治。方舟様。これが私の使命なんですね?)














 ザバァァ───────ッ!









「ああっ、気持ちいい……」










 ちゃぽ……















 ちゃぽ……












(私は杏子あんこちゃんの仇を取る。そして、ゼロワールドを壊滅する!)


(あんな奴らの自由にはさせない。腐った神はそのまま腐って消えればいい!)


(私の救われる道はただひとつ! このまま方舟様のお導きに従うのみ! 怖いものなんてなにもないッ!)













 この対照的ともいえる2人に、今後どのような運命が待ち受けるのか?



 今は、誰にも分からない。

















「イバラちゃんや。ワシは決してクロちゃんのお風呂をのぞいたりはせん! だから、少しお散歩にでも行ってきたらどうじゃろう?」


「んなもん、行くかーっ!」


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