第57話 沼田竜一

 カチャカチャカチャ!

 カチャカチャカチャ、カチャ!


 俺の名前は沼田ぬまた竜一りゅういち。32歳、無職。25まではそこそこ真面目に働いていたが、25のある日、俺は運命的な出会いをした。それが……



 『ドラゴンヴィーナスIIIグロテスク♡』略して『ドラヴィ』



 いわゆる、ネトゲだ。


 ネトゲは10代の頃からちょこちょこやってはいたが『ドラゴンヴィーナス』には見事にハマった、ハマってしまったのだ。


 ゲーム内のフレンドとチャットしたり、クエストしたり、アバターもすごくカッコよく作れる! 時間を忘れて没頭した。


 あっさりネトゲ廃人と化した俺は、当然の如く社会との縁を切る道を選んだ。


 この6畳の部屋からろくに出る事もなく、親の金で生活。特に自己嫌悪や罪悪感などもなく、平然とそんな異常な日常を過ごしていた。



 そんな俺だったが、ちゃんとゲーム内では『恋人』がいた。


 現実はただの童貞野郎。彼女なんてできた事もない。その『恋人』の存在が俺のすべて、支えだった。


 『ゆあたん』


 気が強いかと思えば甘えん坊。そんなツンデレな彼女に俺はゾッコンだった。毎日 毎日ゆあたんと過ごす時間が楽しくて楽しくて。


 しかし、神はそんなニートな俺を許さなかった。幸せは、俺のすべては、突然 闇に葬られることとなったんだ。









ゆあ:[ぬまっち。私 今日でドラヴィを卒業する事になりました。今までありがとうね♡ すごく楽しかったよ!]



「は!? な、なに? なに言ってんの? ゆあたん、俺たちはずっと永遠だって言ってたじゃん!」



 カチャカチャカチャ!



ぬまっち:[どうして!? ねえっ! なんでだよっ! 裏切んのかよ!?]



「はあっ、はあっ、ふざけんなよ、許さねぇよ。ゆあ、早く返事をしろっ!」



ゆあ:[子育てで忙しくなるからごめんね。旦那さんにもやめろって怒られてるんだ。許してね。OK?]


「子育てが忙しくなるだと?」


ゆあ:[ぬまっちとは本当に楽しく遊んでもらったから正直にね。今までありがとうございました。これからもがんばってね♡]


「黙れッ! いつか会ってちゃんと付き合おうと……そ、そうか、俺が勝手にそう思ってた、だけか」



 カチャカチャ







ぬまっち:[あっそ。お幸せに]





 ザァァァァァー!!



 ゴロゴロ……ゴロゴロォッ!


 絶望に打ちひしがれていると、外は大雨。雷まで鳴る始末。まるで俺の心模様だった。


「ゆあに落ちやがれ! 死ねっ! バカ女! ガキなんか作りやがって! ヤリマンが……くそっ! くそっ! くっそおおおおおおおおぉっっ!!!」



 ガシャンッッッ!!



 ガシャンッッッ!




「はあ、はあ!」


 なにもかもがどうでもよくなった俺はパソコンをぶっ壊した。


「ゆあをレイプしてぶっ殺すっ! どこに住んでんだぁ!? なんとしても見つけ出してやる!」



 俺のゆあに対する殺意が頂点に達した時だった。





『素晴らしい……』









「うおっ? だ、誰っ!?」


『その殺意、本物ですねぇ。すごいすごい。私には分かりますよ』


「マジでなんなんだ!? この声は!? 幻聴!? 俺、ヤバいのか!?」


『ケケケッ! ヤバくなんてありませんよ。あなたは選ばれた人間。そう、神になるに相応ふさわしい……』


「俺が神!?」


『そうです。あなたを見下す人間に天罰を与えるのです。『死』というね』



「俺を見下す人間に天罰を……」


 俺はその男の声にどんどん引き込まれていった。その声には不思議な力があった。こんな惨めな自分を優しく包んでくれるような、そんな感覚。


『さあ、腐神『底無死そこなし』と契約を交わしなさい。あなたは神となり、その力でゲスな人間どもを始末するのです。永遠に君臨できるのです!』



「ゆあ……ゲスな女……殺すッ!」


 そのあたりから俺の記憶は曖昧だ。口にドロドロの物体が入ってきて、俺は今まで感じた事のない高揚感に襲われた。目が覚めると俺の体は泥になっていた。形も自由に変形できた。


『こ、これが神の力ですかっ!?』


『その通り。あなたは腐神『底無死』と契約を交わし、神と一体化した。今日から『ヘドロ』と名乗るのです』


『ヘドロ……分かりました』


『では、我々ゼロワールドの本拠地に向かう。行くぞ、ヘドロよ』


『はい』







 ザァァァァー!


 ゴロゴロ……ゴロゴロ……


 ズガァ─────ンッ!


 ザァァァァー!!










 とある都市のビルの高層階。

 『ゼロワールドの本拠地』





『連れてきました牙皇子様。これが腐神『底無死』の契約者ヘドロです』


鎖鎖矢餽ささやき、ご苦労様。仕事が早いね。これでとりあえずは5人が揃った。引き続き私は腐神とコンタクトを取り続ける。早速だけど、白雪は昼間にフロッグマンをふっ飛ばしたっていう女を探して殺してきて下さい』


『はい』


『私とフロッグマンはTK都のテレビ局をジャックする。そして、我々『ゼロワールド』の存在を公にする』


『分かりました。こちらも用意できました。『髑髏どくろの仮面』です。どうぞ』


『ありがとう! うん! ぴったりだよ。さて、暗くなったら、ひとっ飛び行くからね。フロッグマン』


『ゲロ!』



 そして数時間後、あの世間を震撼させた『電波ジャック』が行われたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る