第309話 好き♡

「ふが……あが……」


 ホラーバッハの顔が紅潮し、小刻みに震えている。きっとエルザに説得され、泣き崩れているのだろうとアイリッサは思った。


「エルザさんの包み込むような優しさで、道を外れてしまったホラーバッハ君の気持ちはきっと生まれ変わるはず……!」



























 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……







『ホラーバッハ君はリッヒーと一緒にこの世界を変えるんだ?』


『はい。あなたを傷つけたこの世界をぶっ壊す!』


『ホラーバッハ君……』


『はい』




























『好き……♡』














































 アイリッサが愛の銃弾を打ち込んで1分。ホラーバッハの表情がとても穏やかになり、体の震えも収まった。


 そして、金色こんじきの光に包まれていたネル・フィードは天使の力により完全回復していた。


 キラキラキラキラッ……


『こ、これはアイリッサさんのおかげですか? 傷が治り、体力も満ち溢れているっ……!』


「あっ、ネルさんおっはー! 治った?」


『治ったなんてもんじゃないですよ。っていうか、アイリッサさん、その翼。もう見た目も天使そのものになってますね』


「でしょ♡ それよりネルさん。今、私の愛の銃弾でホラーバッハ君は天国のエルザさんと対面を果たしているんです!」


『そうなんですか?』


「きっと目覚めた時には、エルザさんに説得されて改心しているはずです。そこでダークソウルの吸収に取り掛かろうと思います!」



 シュルルルルルルルルルッ!



 アイリッサは天使の糸を出し、ホラーバッハのダークソウルを引っ張り出す準備に取り掛かる。


『小濱君の時と同じようにアイリッサさんが引っ張り出したダークソウルを私のブラックホールで吸い取れば彼は人間に戻る!』


「ただ、小濱ちゃんの時と違うのは、ホラーバッハ君の寿命はもう尽きているということ」


『確かエルリッヒに会った時点で寿命は残り3日。それからもう1ヶ月以上が過ぎている……か』


「ダークソウルを吸い取ったと同時に、彼は死んでしまう可能性が高いです」


『だが、もうやるしか……!』





「うっ! はああ……♡」


 ホラーバッハがゆっくりと目を開いた。全身の力が抜け、とてもリラックスしている様子が見てとれた。


 アイリッサの言う通り、エルザの愛により彼のけがれた価値観や思想は消え失せたのだろうとネル・フィードも思った。ホラーバッハは柔和な瞳で煌めくアイリッサを見つめた。


「君の天使の力、愛の銃弾で、僕はエルザさんと再会を果たした。ありがとう。お陰で目が覚めたよ……」


 ホラーバッハの澄んだ瞳を見て、アイリッサは心の底から安心した。


「よかったです。エルザさんの気持ち、ちゃんと聞けたんですね。人殺しなんてしちゃダメだって言ってもらえたんですね』


 ネル・フィードも、そんなホラーバッハに穏やかに語りかける。


『ホラーバッハ。今からあなたを人間に戻します』


「悪魔の力がなくなれば僕は死ぬんでしょうね……」


 俯き加減で力なく、ホラーバッハは呟く。


『そうかも知れない。だが、それは悪魔として生きるよりも何倍も美しいことです』


「美しい、か」


『ですが、それはあなたが犯してしまったむごい罪を悔いる心、そして、殺してしまった人たちに対する謝罪の気持ちがあってこそです』


 バッサア!


 バッサア!


 ホラーバッハは黒翼をゆっくり羽ばたかせ、天を仰ぐ。雲が途切れ、太陽が再び大地を照らす。





 ビューウウウウッ!!

























「バカめッ! 誰が悔いるかッ! 誰が謝罪などするものかあッ!!」


「ぷひっ!?」


『んなっ!?』


 ホラーバッハが全身に力を込める。熱風と蒸気が辺りを包むッ!


『うごあああああ─────ッ!!』


 バリバリッ! バ───ンッ!


 その勢いで、彼の着ていた高級スーツは一気に破れ、弾け飛んだッ!! 



 ズゴゴゴゴォォオッ!!



「エルザしゃん、な、なにしてくれてんねーんッ! ぶひゃあっ!」


『説得はできなかったようですね。ホラーバッハが本格的に悪魔化した!』


 ブシュウッ! ブシュウウッ!!


『エルザさんはの人間だったよ。愛する人に背を押され、僕はさらに強くなれた。ゴルルルルルッ!』



 ホラーバッハの見た目はゴリラ。ゴリラの悪魔になっていたッ!

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