第24話 カマキリ

 皆さん、覚えているでしょうか?


薄羽うすば陽炎かげろうニイナ』のことを。


 えっ? 知らないって? そんな方は第4話『満開のSAKURA』をお読みください。



 冗談です。


 天使イバラが所属していたアイドルグループ『満開のSAKURA』のメンバーのひとり。それが『薄羽陽炎ニイナ』でした。


 イバラが抜けて4人になった現在も、頑張って活動をしているのです。



「イバラ、その人は?」


「仲間だよ」


「そうなんだ。ども」


「く、黒宮です。ニイナちゃんと会えるとは思ってなかったですっ!」


「えっ!? 私のこと知ってるの?」


「ニイナ、藤花はまんさくのファンなんだよ」


「えっ!? そうなのっ!? ありがとうございますぅ」


「いやいや、そんな……」

(9割はイバラちゃん見てる。とは言えないなぁ〜。あはは……)


「じゃあ、2人ともあがって」


「うん。おじゃー」


「おじゃまします」



 入った瞬間ベリー系のお香のかおりが漂う。かわいい小物やぬいぐるみで溢れる女の子らしい部屋。


 壁にはまんさくメンバーで撮ったかわいい写真がたくさん貼られている。


 薄羽陽炎ニイナはまんさくの中で最年少の18歳。ちなみにイバラは19歳。ショートボブのグレーの髪は彼女のトレードマーク。名前のインパクトも相まって、イバラに次ぐ人気がある。


「ニイナ、今日は? 来てないの?」


「うん。来てないと思うん……」




 ピンポーン


 ピンポーン

 

 ピンポーン


 ピンポーン……



「え? なっ、なに!?」


「速攻で来た! 私たちが入ったのも、たぶん見てたはずなのに」


「だ、誰なの? まさか?」


「ニイナのストーカーだよ」


「や、やっぱり! うええっ!」


「4月からひとり暮らし始めたんだけど、そのあたりからヤバくて。ここ1ヶ月はひどいの……」


 ニイナは怯え、震えている。イバラはイラつきながら、ストーカーの特徴を藤花に伝える。


「通称カマキリ。痩せ気味の男なんだけど、身長は190センチ以上。この1週間、玄関の前にを置いて行くんだよ。あたおかもいいとこよ」


「鎌!?」


「うん。で、これ……」


 ニイナが1枚の紙を出した。藤花は受けとり読んでみた。


 



『ボクの大好きなニイナちゃんへ♡』


もうやめようよ。アイドルなんて。

ボクだけのカノジョになってよー!

ぜったいにボクのものにする!

ニイナを食べたいんだ!

絶対おいちいよね♡

毎日行くからな!

お風呂に入ってまっててね♡

あっ!!

あぁぁあ!!??

お風呂入ってない方がいいかもしれない説を検証してみたいかもっ!

ニイナなら臭いのも最高♡

   

ニイナを愛するボクちゃんより



「うわぁ、マジでキモいっ!!」


「昨日 郵便受けに入ってたの」


「こいつ、前からアイドルのストーカーしてるの」


「ニイナちゃんが初めてじゃないんだ!?」


「前は『野苺のいちごめーぷる』って子が襲われてさ。いい子だったのに、今はそのせいでうつ病になっちゃってアイドルどころじゃないんだよ」


「そんな、ひどいっ!」


「カマキリは執行猶予中。今度は懲りずにニイナを食おうと狙ってるっ! めーぷるちゃんの二の舞には絶対させないっ!」


「前までは自宅にまでは来なかったのに。ピンポンされてすぐに警察呼ぶんだけど消えちゃうし。超怖すぎるの……」


 ニイナは半泣きで震えている。


「今日で終わるから。安心して、ニイナ」


「イバラちゃん。ニイナちゃんにはどこまで話してあるの?」


 藤花は震えるニイナを見ながらイバラに確認する。


「ニイナには全部、話してある」


「聞いたよ。イバラが元気になった理由も、めっちゃ強くなった理由も。死ぬまで悪人を退治するってことも」


「私の作ったまんさくは私が守る。クソストーカーにニイナを傷つけさせはしない。確実に消すっ!」




 ピンポーン……




「ニイナ。お風呂かトイレにかくれて。部屋に入れるから。その方が仕事がしやすい。いい?」


「わかったっ!」


 ニイナは素早くトイレに身を隠し、鍵をかけた。



「藤花。始めるよっ!」


「う、うん」




 ピンポーン……




 イバラは玄関のドアをゆっくりと開けた。するとッ!!


 ガッ!!


 隙間から入ってきた手がドアを掴み、強引に開くッ!




 グアッ!!



 



「おーけー! 心の扉、解錠ぉ〜♡」


 190センチを超える大男! 線が細いと言っても男だ。でかい!


 カマキリが侵入してきた!


「お前ら誰なんだよ? ニイナちゃんを出せよオラ。ぶっ殺すぞっ!」


 クソストーカーカマキリの手には、ギラリと黒く光る鎌が握られていた。

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