第172話 ダブルXの女戦士

 ここは惑星アンティキティラ。


 大陸中央に聳える1,000メートルを超えるクリスタル高層タワー。その最上階に『第3ミューバ』を担当する部署はある。もちろん、今回のシヴァ消失の件には皆、頭を抱えていた。


『前代未聞だよッ!』


『シヴァをミューバから取り去るなんて、一体何者の仕業なんだ?』


 ピコピコッ! ピッ! 


 ピコピコッ!


『現在、第3ミューバには4体の腐神の力を確認。我らの力を与えた人間は2体……ん? 3体? あれ? 腐神と我らの力が重なっている反応が……』


『おいっ! それって……』


『それも前代未聞だ。腐神が我らの力を与えた者と契約したのだろう。あー、頭が痛い……』


『そんな事があり得るんですね』


『実際そういう反応が出てるんだッ! だからあり得るって事だッ!』


『す、すみません。バカな事を言いました……』


『はあっ。我々アンティキティラがカテゴリー1となり、この邪魔な肉体とオサラバして精神生命体になる日も近いと思っていたのに。とんだ災難だ』


『まったくだ。腐神が一気に複数ミューバに降り立つわ、シヴァは取り去られるわ、この異常事態、どうすればいいんだ?』


『何が正解か分かりませんね』


『まさにその通りだ。このミューバの危機さえ乗り越えられれば、我々アンティキティラの未来は明るいはずなのだ!』


『室長っ! 今、検索結果が出ましたッ! シヴァを地球から取り去った2体の腐神の反応。アウトオブカテゴリーですッ!』


『な、なんだとおおおっ!?』


『ハイメイザー!?』


『うっそぉ……』


 ハイメイザーの腐神化。やはりそれは全宇宙に衝撃が走るほどの異常事態だった。彼らの楽園『エデル』に一体何が起きたというのか?


 それを調べる術はない。あるとすればミューバにいるハイメイザーの腐神に直接聞くしかないのだ。



 ヴィーン!



 暫くすると会議室の扉が開き、1人の人物が入ってきた。一同、その人物の登場に目を丸くした。


『失礼しますッ!』


『き、君はダブルエックスの女隊長『ナナ・ティームース』じゃないかっ!』


『はいッ! ナナ・ティームースでありますッ! 今回のミューバでの異常事態収束の為、私をミューバへと派遣して頂きたく、参上した次第でありますっ!』


『ダブルXの君が? ミューバに? 本気か?』


『先程、上層部から緊急連絡を受けました。ハイメイザーが腐神化したとか?』


『ああ、何がなんだか分からんよ。アンティキティラがカテゴリー1になるのが2万年は遅れそうだ。下手をすればカテゴリー3に降格だ……』


『先程 上層部にも伝えたのですが、私が思いますに、その腐神化したハイメイザーはエデルにとっての厄介者なのではないかと……』


『そ、そうかっ! なるほどっ! つまりっ……」


『その腐神化したハイメイザーを仕留めれば……』


『おおっ! 我々アンティキティラのカテゴリー1昇格が一気に加速するっ! そういうわけか!?』


『その通りでありますッ!』


『よ、よしっ! では他の部隊も引き連れて一気に……』


『お待ち下さいッ! ミューバへは私、ナナ・ティームース1人で行かせてはもらえないでしょうか?』


『な、何故だ? 大勢の方が確実に……』


『まずは私がきちんと相手の実力を見極めてきます。我々、アンティキティラの力を与えた人間もあと2人生き残っているようですし、部隊の大半がカテゴリーの溝を越えてミューバに降り立つ事ができない連中ばかりなので』


『そ、そうだったな。君は以前からミューバについて研究しながら戦闘も極めるという、実に優秀な人材であったな。さすがダブルXの隊長だ』


『恐縮でありますッ!』




 数時間後、事前準備を整えたアンティキティラの女戦士、『ダブルX隊』所属、隊長『ナナ・ティームース』は最新機種のお洒落な小型宇宙船『ドロシー』に颯爽と乗り込んだ。


『では、行ってまいりますっ!』


『頼んだぞッ! ナナ隊長ッ!』


『はっ! 十分なデータを収集し、帰還しますッ! お任せくださいッ!』




 シュワゴオオオオッ!



 ナナ・ティームースを乗せたドロシーはミューバへと飛び立った。


































『や、やったっ! この時を待っていたッ! これで窮屈&退屈な毎日とはオサラバだッ! カテゴリー1だの2だの知った事かぁっ! これで私は自由っ! めっちゃフリーダムッ!』


 ナナ・ティームース。彼女は真面目なアンティキティラ人、初のはぐれ者になろうとしていた。

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