第2話 黒宮藤花
「では、いってきます。お母様」
「いってらっしゃい。車に気をつけてね。お勉強がんばってね!」
優しい母に見送られ、気持ちも晴れやかに藤花は学校に向かう。
黒宮家 長女、
将棋好きの父が、女流棋士のタイトル『
名門、
『ロングの黒髪』に『金縁のめがね』
身長は168センチ。
成績は学年トップ。性格はまじめで明るいのだが、そんな藤花をクラスメイトは時折、奇異な目でみていた。
その理由、事あるごとについて出る
『
運動会や文化祭などの学校行事に取り組む際も、藤花はすべてに『
「フォークダンスなんてありえないです。20歳になる前に異性に触れては体が
「だめだめ。文化祭程度のことで感動して泣くなんて。泣くのは身内の者が亡くなった時だけにしなきゃ。天に昇れなくなっちゃうよ。方舟様がそう仰っているんだよ」
さすがに不気味がる生徒もいた。
しかし、藤花はまったく動じることはない。自分の信じるべき道を、ひたすらに胸をはって生きていた。
そんな藤花ではあったが、今から5年前、小学6年の時『永遠の方舟』をめぐり、ある出来事に見舞われていた。
1学期のある日の給食の時間。
「おい! 黒宮! なんでお前だけ給食じゃないんだよ!」
「えっ? これは方舟様のお米とお野菜だよ。私はこれしか食べちゃいけないんだ。そういう決まりなの。天に昇るためだから……」
「天に昇る? なんだ? 方舟様って。きしょ! 宗教か? 変わってんなぁ」
「信仰の自由、知らないの?」
「こないだニュースでやってたよなぁ。へんな宗教信じてる奴らが悪いことして警察に捕まってたの」
「やめて。そんなインチキな宗教と方舟様を一緒にしないでっ!」
「ふん! 一緒だって! どうせ、その弁当の中にも変なものが入ってんだぜ! 方舟菌だぁ!」
「やめてよっ!! 方舟様を侮辱しないでくれる!? 許さないからっ!」
「そこ! ケンカしない!」
担任の教師が注意して、その場はおさまった。
その後も、教師のいないところで、その男子生徒による藤花に対する『方舟様いじり』は続いていた。
「お〜い! 方舟菌!」
「方舟様はうんこするのか?」
「方舟様は金儲けが趣味なんだろ?」
さすがに、温厚な藤花も限界が近づいていた。そんなある日、藤花は和室の方舟様の神棚に願った。
「あの男子に天罰を与えて下さい。私はもう我慢できません。許せません。方舟様をあんなにバカにするなんて……」
その2日後だった。
交通事故にあい、その男子生徒は重体。意識は回復するも、両足は切断を余儀なくされ、車椅子生活をしいられることとなった。
それからである。
藤花の方舟様への信仰心が、一層増したのは。
「方舟様はすごい。私は方舟様にちゃんと見守られているんだ。選ばれた人間なんだ……」
「おはよう。藤花っ♡」
ひとりの美少女が、駅に向かう藤花に声をかけてきた。
「あっ、おはよう!
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