第241話 私を殺して

 アイリッサの入った繭を足蹴あしげにするピンクローザ。彼女をただ殺すだけなら、今のネル・フィードには容易いのかも知れない。姿が悪魔に近づいたとはいえ、彼女はマレッドの妹。


 『元に戻せる』


 その直感を信じたかった。



『ダーク・オブジェクションで貫通できない貴方の体。でも、これならどうかしら?』



 ギュルルルルルルルルッ!!



 ダーク・オブジェクションがピンクローザの両手に何重にも巻き、巨大なウォーハンマーと化した!


 ズオンッ!


『これで、叩き潰すってのはどうかしら? きゃはは!』


『さしずめ、私は真っ黒なゴキブリ。といったところですか』


『うまいこと言うじゃない。そうっ! あんたは醜く、汚いゴキちゃんよっ! の私が、直々にぶっ潰してあげるッ!』


『私はゴキブリでも、かなりしぶとい種類の方なので、きっと苦労しますよ』


『あっそう。それじゃあ……』


 ピンクローザが殺気をまとったウォーハンマーを構える。すぐにでも襲い掛かりたいが、ネル・フィードの隙をなかなか捉えられない。


 その時!



「う……ネ、ネル君?」


 気を失っていたマレッドが、目を覚ました!


『マレッドさっ……!』



 ネル・フィードの視線がピンクローザからマレッドに一瞬ズレたッ!



『死刑執行だぁぁ─────ッ!!』



 ダンッ!!



 そこへすかさず、ピンクローザのハンマーの嵐が襲いかかるっ!



 ズガンッ! ズガンッ! 


 ドォンッ! 

 

 ドォンッ! ズドォンッ!!


 ドガッ! ドォンッ! ドガッ!

  

『死ねぇっ─────!!!!』


 ズッゴォォオオオーンッ!!


『うっ! ぐはっあ!!』


 隙を突かれたネル・フィードは全身をハンマーで叩きのめされ、床に倒れ込んだ。そして、ピンクローザは悪魔の形相で姉の顔を覗き込む。


『おはよう。劣等生のお姉ちゃあん。よく寝れまちたかあ?』


「あ、あんた、完全に見た目も悪魔じゃない。私の自慢の妹がなんでこんなことに……」


 マレッドのその言葉を聞いて、にやけていたピンクローザの顔は一気に怒りに染まった。


『自慢の妹? 嘘言わないでよ! 私のことをねたみまくってたくせにっ!!』


「なんで私があんたを妬むのよ。私の分までいろいろ背負わせちゃって、辛くなかった? ごめんね、恨まれて当然よね。後は私を殺して終わりにしなさい……」


『や、やめてくれる? 同情っ!? 違うでしょ!? 姉さんは優秀な私に嫉妬してっ、憎くてっ、心の底から死んでほしかったんでしょっ!?』


「そんなわけないでしょ。確かに申し訳なさから、あなたと距離を置いてしまった。誤解させたなら謝る……」


『そ、そんなはずないッ!! 姉さんは私を嫌っていたっ!!』


「馬鹿ね。それならそれでもいいわ。私を殺しなさい。ネル君とアイリッサにはもう危害を加えないで」


 ピンクローザの両手の糸が解け、ハンマーが消えた。


『そ、そうっ! 分かったよっ! 私は騙されないッ! 姉さんを殺すッ! ウザい家族を消して、あのお方のとなるッ!』



 シュルルルルルルルルルッ!


 カチャッ!


 ダーク・オブジェクションは、ピンクローザの手の中で拳銃となった。その銃口は、躊躇うことなく姉マレッドへ向けられた。


『できそこないの姉を持って、私は世界一不幸だったわ。でも、そのおかげで私は強くなれた。それだけは感謝してる。じゃあ、さようなら!』



 ピンクローザは拳銃の引き金に指をかけたッ!!
















《やめてっ!!》



『だ、誰っ!?』



《姉さんを殺さないでっ!!》



 ピンクローザの頭の中に、本当の自分の声が響くっ!

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