第356話 家族の絆

 私を殺して母は刑務所で暮らせばいい。一生出てこれなければいい。そう思い、目を閉じた。



 その時ッ!



「姉さんッ! 何やってんのッ!!」


 叔母おばが絶叫と共に私たちに駆け寄って来た。叔母とは年に2、3回しか会う事はない。それなのにこのタイミングで現れるなんて。


 私は神の存在を意識した。


「うっぎゃああっ! 離せーっ!! マリーをよこせッ! うわーっ!」


 近くを通りかかった男性も駆けつけてくれて、狂った母は取り押さえられた。暫くして警察も到着。私は事情聴取を受ける為、叔母に付き添われ警察署へ行く事になった。





 その帰り、叔母は私の頭を撫でながら言った。


「マリーちゃんが良ければうちにいらっしゃい。部屋も用意するから」


「でも……私は障がい者だし……迷惑かけるし……」


「何言ってんのよ。私たち家族よ。支え合っていくのは当然じゃない」


「で、でも……」


「え? じゃあマリーちゃんは叔母さんが障がい者だったら放っておくの? 見捨てるの?」


「そ、そんな事ないですっ!」


「でしょ? だから大丈夫って事!」


「お、叔母さん、私、私はっ! ぐすんっ……」


 叔母がこんなに優しい人だとは知らなかった。どちらかといえば 少し近づき難い存在、それが叔母だった。だから余計に涙が出た。


「マリーちゃん、もう忘れるの。新しい人生を始めるのっ!」


「新しい……人生?」


「そうよ。私はマリーちゃんを支える。だからマリーちゃんも私を支えて欲しい。これからは家族の絆をより強くして生きていこうっ!」


「叔母さん、ありがとう。迷惑かけると思うけど……」


「気にしないの! マリーちゃん、障害はね、武器になるのっ! 知ってる?」


「え? 障害が武器?」


「そうよっ! 障害はその人の強力な個性になるの! そして、その人にしか見えない世界を伝える事は、時に人の心を動かしたり、感動させたりするんだよ!」


「わ、私にも? そんな力が?」


「当たり前でしょ! はっきり言って障がい者は健常者よりも強いッ! そんなマリーちゃんをこれから側で見守らせてちょうだい!」


 叔母のその言葉は、私に息を吹き込んでくれた。


「うん。私、強くなる。叔母さんのうちに行くっ!」


「はーい! よろしくね!」















 その時の私は見えていなかった。


 車椅子を押す叔母の、貼り付けたような笑顔が。

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