50話 勝利?


 50話 勝利?


「「「――ヒーロー見参――」」」


 膨れ上がった三つの命、

 そのまま流星のように、

 深く遠く、堕ちていく。


 心と身体が自由になって、

 空っぽの魂がおしゃべりになる。



「……ぷはぁ……」



 海の底から抜け出したように、

 精一杯の勢いで息を吸うセン。


 心臓はない。

 両手両足もない。


 だが、センは舞える。


 形を失っても、

 それでも、センは抗い続ける。


 『そうであること』を求められたから?

 違う。


 『そうであること』を求め続けたから、



「……いくぞ、ヨグ=ソトース……殺してやる」



 そう宣言してから、

 あらためて、

 図虚空を口にくわえるセン。


 猛獣の構えをとって、

 むき出しの殺気でヨグをにらみつける。


 豪速の瞬間移動で、世界を翻弄。

 認知できない速度を求めて、

 センエースは、さらに輝く。



(――天聖・龍牙一閃――)



 命を削って磨いた牙が、

 煌めく閃光に包まれる。

 魂の壁を何度も超えて、

 たどり着いた修羅の華。

 次元の螺旋が渦をまき、

 時空の羅刹を黙示する。



「……っ……ぐっ……っ」



 センエースの牙は、ヨグに届いた。

 磨き続けてきた命が、ようやく華開いた瞬間。

 積み重ねてきた全部を、間違いなく、全てぶつけて、

 その手に手ごたえもシッカリとあった。


「……ぅ……ぁっ」


 『首に刃物をつきたてられて血を吐いているヨグ』がうめき声をあげる。

 センは、ヨグにつきたてた図虚空から口を離して、


「……勝った気がしないのは……なんでだ……?」


 そう問いかけた。

 人生史上最高の完璧な一手をたたきつけて、

 けれど、一ミリたりとも勝った気がしない。

 それどころか、不安と恐怖で、心がザワザワするばかり。


 センの問いかけに対し、

 ヨグは、真摯な顔のまま、



「いや、貴様は勝った。私を超えたのだ。見事だ」



「お褒めにあずかり光栄だが……本当に、俺……勝ってる? お前、ちゃんと、死んでる? そんな気が全然しないんだが……」


「貴様は、間違いなく、『第一形態の私』に勝った。この形態の私を、貴様は、超えてしまった」


「……第一……形態……」


 そこで、センは、ヨグシャドーが言っていた言葉を思い出した。

 ヨグの本体は、何段階もの上位形態を持つということ。


「このヨグ=ソトースは、変身をするたびに、パワーがはるかに増す。その変身を、あと7回も、私はのこしている。その意味がわかるな?」


 ゴリゴリのテンプレをぶつけられたセン。

 そのまっすぐなテンプレに対して、小粋な返信ができる余裕などなかった。


 ただただ、純粋に震えるセン。

 恐怖で頭がおかしくなりそうだった。


 ――けれど、それでも、


(考えろ……どうする……どうすれば……こいつをどうにかできる……?)


 頭が暴走する。

 自分の奥深くへともぐりこんで、

 残っている道を必死になって探す。


 しかし、ない。

 もう、全部、使ってしまった。


 天童と才藤という、二人の、特別な主人公のカケラを拾い集めて、

 自分の中へと落とし込むコトで辿り着いた壁の向こう。


 今、自分が立っている場所の『高さ』も『位置』も、

 実のところ、ろくに把握できていないのが現状。

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