56話 外なる神、ゲットだぜ。


 56話 外なる神、ゲットだぜ。


 どうでもいい対話の後に、

 センの願いを受け止めた図虚空は、

 そのままガブリとマイノグーラにくらいつく。


 モグモグモグモグモグモグ、と、長い咀嚼。

 GOOとは、何もかもが違う。


 とにかく破格の性能を持つアウターゴッド。

 そのアウターゴッドを、


「眷属化、完了。アウターゴッド・マイノグーラは、今後、センエースの指揮下に入る」


 そう言ってから、図虚空は、マイノグーラ吐き出した。

 見た目は特に変わっていない。

 しかし、明らかに、魂魄のパッケージが変わっている。


 そのことに、マイノグーラも当然理解しているため、

 ワナワナと震えながら、




「――こ、この私が……人間の眷属に……」




 自分の状況が信じられないマイノグーラは、

 頭を抱えて、


「この……外なる神である……この私が……っっ」


 羞恥と憤怒に、体を震わせる。


 『とにかく、ウザすぎて仕方ない』という顔をしている彼女に、

 センは、


「徹底的に見下していたカスの手持ちになるというウザさ……その気持ち、分からないでもないが、しかし、お前の『気持ちの整理』を悠長に待っていられるほど余裕があるわけじゃない。俺は既に覚悟を決めた。この先、お前よりもヤバいやつが召喚される。その時の武器として、お前には精々、頑張ってもらう」


 そう言いながら、

 センは、有無を言わさず、マイノグーラを装備する。


 その結果、センの存在値は爆上がり。

 『外なる神』というオプションの効力はハンパではない。



「……えげつない強さになったな……虹気の質も向上している……」



 虹気というものが、実際のところ、どういうものなのか、まだ、完全に理解したわけではない。

 しかし、虹気のスペックを限界まで引き出して、外なる神に抗ったという経験があるため、最低限、何ができるオーラなのかは分かっている。


(これだけ強くなったが……しかし、それでも、まだ、足りない……そうだろう?)


 心の中で、そう問いかけると、

 ヨグシャドーも、それにこたえて、


(当たり前の話だ。私の本体は、マイノグーラのようなカスとは次元が違う)


(外なる神をカスと言えるお前が怖いよ……)


 などと、タメ息をついたところで、


「おっと……」


 グラっと、足元がフラついて、

 センは、糸の切れた人形みたいに、力なく倒れこむ。


(……あ、やば……これ、気絶する……)


 張り詰めていた気が、一気に開放されたことによる極度の精神的高低差が、

 センの体から自由を奪い取る。


「うっ……ちぃ……っ」


 抗えない睡魔よりも深い落下。

 もはや、意思の力ではどうしようもない。

 完全に意識を失ったセン。


 ――『ヒーロー』が倒れたことで、

 周囲にいた中学生たちが、

 いっせいに、センにかけよって、

 恐怖や不安を、騒ぎ出す。


 すでに、マイノグーラという危機はさった。

 ヒーローが、悪を滅してくれた。

 そのことは、なんとなく理解できている。


 しかし、いまだ色濃く残っている恐怖の余韻から、

 彼・彼女たちは、

 『ヒーローの庇護下』というポジションを手放せない。


 今の彼・彼女たちにとって、ヒーローを失うのは、

 赤子が、母親を失うのと同じ。

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