57話 K5の旦那。


 57話 K5の旦那。


 ――『ヒーロー』が倒れたことで、

 周囲にいた中学生たちが、

 いっせいに、センにかけよって、

 恐怖や不安を、騒ぎ出す。


 マイノグーラにボコられて、ズタボロの姿。

 そんな状態で、気絶されたら、死を連想しても何らおかしくはない。

 ゆえに、


「け、警察! 警察ぅう!」

「んなもん呼んでどうする! それより、救急車!」

「ちょっと、待って! 死んでないよね! 死なないよね?!」

「じ、人工呼吸とか、誰かできないの?!」

「た、確か、顎をあげて――」

「できるの?! じゃあ、やって! この人、死なせないで!」

「む、むりだ! 小学校の時、一回、教わったことがあるだけで――」

「いいから、救急車ぁ!」


 その混沌とした騒ぎは、



「黙りなさい!!」



 かけつけた紅院の怒声によって、かきけされた。

 よく響く声だった。

 キィィィンっと、まるで、硬質金属を豪快に叩き割ったような一喝。


 誰もが一斉に黙った理由は、声質の強度だけじゃない。


 紅院の両手には、マシンガンが握られており、

 その美しい瞳には、ガチンコの殺気がにじんでいた。


「私の旦那から、離れなさい。そこ、安い手で、私の旦那に触るな」


 高圧的かつ威圧的に、

 紅院は、他のK5も引き連れて、センの元にかけよる。


 その鬼気迫る態度を受けて、

 中学生たちは、全員だまりこくったまま、一歩もその場から動けずにいる。


 『K5』という超絶異常集団の噂は、

 中学生の間でも、当然のように広まっており、

 『K5であれば、重火器を校内に持ち込むことも、ぶっちゃけ余裕である』、

 という事も理解できている。


 だから、誰も、『どうせ、オモチャだろう』などとは思わなかった。

 ここにいる誰もが『あ、ヤベェ。ガチンコのキチ〇イがきた』としか思わなかった。



 静まり返った空間の中で、

 紅院は、センの瞳孔や脈を確認し、

 安否をはかると、


「気絶しているだけ……だと思うわ。絶対ではないけれど……少なくとも、死んではいない」


 そう言いながら、センをお姫様抱っこの要領で抱え込むと、

 後ろにいる茶柱が、


「あ、ズルいにゃ! それは、正妻であるツミカさんの仕事にゃ!」


「そんなこと言っている場合?! このボロボロの姿が目に入らないの?」


「ツミカさんの旦那が、この程度で死ぬわけないにゃ。あと、脳筋のミレーてぃんよりも、万能天才で回復魔法もお茶の子さいさいのツミカさんが運んだ方が、センセー的にプラスだと確信しているにゃ」


 などと言いながら、紅院の腕の中から、

 強引に、センを奪い取ると、

 実際に、回復魔法を使いつつ、

 センに向かって、


「まったく、いつも、いつも、ツミカさんのために体をはって……ツミカさんの事が大好きなのは分かるけど、自分一人だけの体じゃないんだから、あまり無茶しちゃだめだにゃ」


 などと、ヨメ感を全開させながら、

 そんなことをほざくツミカに、

 黒木が、


「どう考えても、今回、閃さんが、体を張ったのは、あなたのためではないでしょう。あと、回復魔法の精度では私の方が上なので、私が運びます。私のパートナーを返してください」


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