40話 黒木愛美は、


 40話 黒木愛美は、


「記憶にございません。俺は、政治家なみに記憶力抜群だから、俺が覚えていないということは、お前の記憶が間違っているんだろう。はい、論破」


「かたくなにごまかそうとしていますが、しかし、逃がしませんよ。私の頑固さをナメない方がよろしいかと。仮に逃げたとしても、地の果てまで追いかけて、とことん問いたださせていただきます」


「……お前のヤバさに関しては、まったくもって、ナメていないつもりだったんだが……なんだろう……圧力が増しているというか、なんというか……」


 黒木愛美は、固有アビリティである『冷静』が売りのキャラだったはずだが、しかし、今の彼女は、かなりの熱血強引というか、ずいぶんと、ある意味でメンヘラ寄りな気がした。


 その事実に対し、

 センは、『なぜだろう?』と思うばかりで、

 『答え』にたどり着くことはない。




 ※ 反則だが、ここから、少しだけ、彼女の心境について記載させてもらう。


 ――黒木愛美の『コア』は、幾度となく、センと時間を共にしたことで、

 彼に対して、特殊な感情を抱くようになっている。

 だが、彼女は、まだ、自身の感情を正式に理解できていない。


 『何もかも』が、かなりあやふやなまま、

 彼女は、何度も、センと時間を共にすごした。


 『記憶のリセット』という『歪み』をはさみながら、

 何回も、何十回も、何百回も、

 彼女は、『センを支える一週間』を過ごしてきた。


 そんな中で、彼女の中に生まれた『何か』は、

 記憶のリセットごときで『完全消失』するほど脆くはない。


 彼女は、何も覚えていない。

 しかし、魂には刻まれている。


 『すべての弱い命のため』に、

 『ありえないレベルの地獄』と向き合い続けてくれた男のことを。

 そんな彼に対し、実は、当たり前のように、

 毎度、毎度、特別な感情を抱いていたことを。


 記憶にはなくとも、心が覚えている。

 理解できていなくとも、魂魄は把握している。


 ――それを踏まえた上で、今回、センが抱いた疑念、

 黒木に対する『なぜだろう』を解説させてもらう。



 これまでの数百回で、

 黒木は、常に、センに頼られてきた。

 『唯一のパートナー』として、

 ずっと、頼りにされてきた。


 実質的には『ダウジングマシン』としてか見られておらず、

 理性の部分では、その点を、十全に理解しているのだが、

 しかし、感情的には、『無茶する旦那を支える妻の心情』になってしまっている。


 女性の心理の中には、

 性行為をした相手に対して、

 『性行為を許すほどの相手なのだから、自分はきっと、この男のことが好きなのだろう』

 と脳が『ムリヤリにも認識しようとするシステム』が存在する。

 その方が生物学的な理由で合理的であり、心理的負担が軽減されるからである。


 そのシステムを基盤とした、


 『これだけ尽くしたのだから、自分は、

 おそらく、この男を特別視しているのだろう』


 という尖った結論に至る特殊感情が、

 『今』の、黒木の中には渦巻いている。


 ――その特殊感情が、魂魄に残ったまま、しかし、記憶は存在しないという、あまりにも不安定がすぎる現状。


 それが、黒木のメンヘラ化の理由――その一端。

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