39話 俺はヒーローじゃない。


 39話 俺はヒーローじゃない。


「ふふん、聞いて驚け。私を取り込んだことにより、図虚空の『銀の鍵を索敵できる範囲』が、なんと『17ミリ』も増加した!」


「……うれしくて、涙が出るよ……」


 深いタメ息をつきながら、

 センはボソっとそうつぶやいた。



 ――空気が落ち着いたところで、

 それまでは黙って見ているだけだったトコが、


「ぇ、ちょっと待って……どういうこと?! なんなん、これぇええ?!」


 と、我慢ができなくなった感じで大声を出した。



「え、ほんま、なに?! どういう状況?! 教えて?! マジでわからんからぁ!」



 ほとんど発狂したような感じで、

 疑問符を乱舞させる彼女に、

 センは、

 図虚空を亜空間にしまい込みつつ、


「落ち着け、薬宮」


 至極冷静な口調で、


「分かり切ったことを聞くんじゃない」


「わかりきった? なにが? どういうこと?」


「アウターゴッドと戦って勝てるヤツなんかいるわけがないだろう? ようするに、すべては、はかない夢だったという、それだけの話さ」


「……ゆ、夢?」


「そう。夢。うたかたのドリーム。睡眠時に見る幻覚。お前の脳が、これは現実であると、錯覚しただけの虚像。つまりは夢オチ! 創作物界のタブー! 鬼畜の諸行!」


 と、センは、どこかで聞いたようなセリフを並べ立ててから、


「というわけで、俺に過剰な期待をして、変な希望を持ったりするな。リーダー役を押し付けようとか、ヒーロー扱いしようとか、そういうことは絶対にしちゃいけない。俺はヒーローじゃない。今、お前が見たアレコレは全て夢。俺は、ただの凡人。何者でもない『ただの凡庸な一男子高校生』でしかない。わかるな? 理解できたな? ――というわけで、俺は、この辺で、おいとまさせていただき――」


 全力で逃げようとするセンに、

 黒木が、半眼で、


「いや、あの……逃げられませんよ? さすがに」


 と、しごく、常識的なことを口にした。


「逃げる? おかしなことを言う。俺はただ、事実を並べて揃えて晒しただけ。それ以上でもそれ以下でもない。俺はいつだって、むき出しの俺で在り続ける。そんな鋼の覚悟を決めて、俺は、今日までの日々を駆け抜けてきた」


「無駄にカッコいい言葉でケムに巻こうとする、その謎なスタイルについても、色々と言いたいことはありますが、今は、それよりも、あなたの正体について教えてもらいたいですね。あなたが召喚したゴツいナイフ……あれは、やはり、携帯ドラゴンですか? あなたは、最初、自分は携帯ドラゴンを使えないと言っていましたが、それは、ウソ……ということでいいのでしょうか?」


「携帯ドラゴン? なんだ、そりゃ? 俺は、それが、おいしいかどうかを聞けばいいのか?」


「いや、さすがにそれは通らないでしょう。あなたの方から『自分は携帯ドラゴンを使えない』と言い出したわけですし」


「記憶にございません。俺は、政治家なみに記憶力抜群だから、俺が覚えていないということは、お前の記憶が間違っているんだろう。はい、論破」



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