60話 お前はどうだ?


 60話 お前はどうだ?


 銀の鍵を天に掲げて、


 自分は、

 まだ、

 がんばれる、


 と、宣言し続ける。


「……辛い……辛い……辛い……」


 何度も泣きじゃくった。

 何度もふさぎこんだ。

 何度も、

 何度も、

 何度も、



 ――それでも、



「……まだ……がんばる……がんばれる……」



 奥歯をかみしめて、

 涙を飲み干して、

 狂っていく頭を抱え込んで、

 ラリった目で、世界を睨みつけ、



「俺はまだ……がんばれる!!」



 勇気を叫び続けた。

 それは、もはや、勇気ではなく狂気だった。


 完全に壊れていながら、

 それでも、歩みを止めないヒーロー。



 ★



 ――そんな、ヒーローの様を、

 『ここではないどこか』で見つめている者たちがいる。


 その中の一人である『マザコン熾天使』は、

 ボソっと、


「できるか? あいつと同じことが」


 そんな問いを投げかけられ、

 隣に座っている『厨二の聖なる死神』が、


「できるかもしれない。やったことないから知らんけど。……ただ、一つだけ、間違いなくいえることがある。絶対に、やりたくはない」


「そうだな。絶対にやりたくない」


 キチ〇イを見る目で、センを見守っている二人の元主人公。

 センエースの止まらないキ〇ガイっぷりから、その目が離れることは決してない。


「がんばれ、センエース。お前がナンバーワンだ」


 ふいに、ボソっと、そうつぶやいたマザコン熾天使。

 厨二死神は、そんな彼を横目に、


「……え、なんで、急に、王子テンプレをぶちこんできた?」


「なんとなくだ。それ以外の理由はない」


「……変わってんね、お前」


「……そのセリフ、誰に言われても受け入れるつもりでいるが、お前にだけは言われたくない」


「ぼくちゃんのどこが、変わってるって証拠だよ♪」


「そこ」


 と、どうでもいい会話の途中で、

 マザコン天使は、ソっと、後ろを振り返って、


「お前は、どうだ? できそうか? あいつと同じこと」


 そう声をかけた相手。

 マザコン天使の背後で座っているのは、

 寿司職人のような恰好をした大柄の男。


 彼は、マザコン天使の問いに対し、


「ん? なに? ごめん、聞いてなかった」


「……いや、だから……センエースと同じように、無間地獄の底でも、『まだ、がんばれる』と勇気を叫べるか、って」


「ん、あー、うん。できない、できない。俺、別に、根性ないから。多少の忍耐力ならあるけど、しょせんは、一般人レベルでしかないからね。ハンパなブラック企業で数年耐えるだけなら出来る自信はあるけど、ゴリゴリのブラックが相手だと半日持たずに逃げ出すね」


「歴代最強の武を誇る『殺神』様とは思えないユルフワ発言だねっ♪」


「歴代最強って……俺なんか、単に、格ゲーの才能があったってだけの話だよ。一応、世界を守るために戦った経験はあるけど、君らほど抗えてはいない。というか、君らの根性は異常。正直、俺みたいな一般人を、君らと同じテーブルに乗せないでほしい。あと、素の殴り合いは、確かに、そこそこ強い自信があるけど、魔法とか、もろもろを含めた場合、君らの方が強いしね」


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