B章最終話 ありがとう。

 B章最終話 ありがとう。


「最後に教えてくれよ。お前の名前は?」


「……イグ……」


 名前を口にしたところで力尽き、

 イグは完全に消滅してしまった。



 それと同時、

 空間が消滅し、

 センと紅院は、元の場所に戻っていた。



「おっ……タイミングよく、幼児化の呪いも解けたな……」


 センがそう言ったことで、

 はじめて、自分の変化に気づいたのか、

 紅院は、自分の体のアチコチをさわりながら、

 戻ったことを確かめると、


「……ぁ、ありがとう」


 あらためて、

 静かに、

 丁寧に、

 センへ、お礼を口にした。


「礼を言われるようなことは、なんにもしとらんがな。結局、あいつ、アウターゴッドじゃなかったし」


「ウボの……イグの魔力量は尋常じゃなかった。ロイガーとツァールの二人がちっぽけに思えるくらい、とんでもなく強大だった……」


「そうだな。事前に見せた小物臭さを考えれば、信じられないぐらい、強い神格だったな」


 ちなみに、センの感覚だと、『ウムルよりは弱い』といった感じ。

 ウムルを100とした場合、イグは50~70ぐらい。

 ただ、それでも、ロイガーやツァールのようなA級と比べると、

 『遥かなる高みにいるバケモノ』だったことは間違いない。


「まあ、それほどの神格でも、俺の前ではゴミに等しいというわけだ。俺、すげぇ。俺、かっこいい。俺、すてき。俺、抱いて…………きっしょ」


 自分で自分の言葉に吐き気を催すという、

 エキセントリックなサイコパスっぷりを魅せつけてから、


「まあ、なにはともあれ、今回の件は、結局のところ『GOOを二体倒しました』ってだけの話。俺からすれば、さほど大きな仕事じゃねぇ。だから、変に感謝とかはしないでくれ。というか、するな。……あ、いや……むしろ、感謝しろ。俺の命令を聞け」


「……いいわよ。なんでも聞く。命の恩人だから。性奴隷になれっていう命令でも、喜んで聞いてあげるわ」


「そういう発言、マジでやめようぜ。なんか、妙にヘコむんだよ」


「……変な男ね。普通、喜ぶんじゃない?」


「男をなんだと思ってんだ」


 と、吐き捨ててから、


「命令だ。今日、俺が、お前にしたことを忘れろ。以上だ。あ、あと、俺にリーダーを頼もうとはするな。俺は常に孤高。俺は、常に、俺一人だけで人生が完成している。というわけで、今後は、シカトでよろしく」


「……」


 などと、中身のない会話をしていると


 そこで、




「あ、おった、おった」




 トコたちが駆け寄ってきて、


「出てこられたようやな。ミレー、ケガとかないか?」


「え? あ、うん……まあ、ケガは死ぬほどしたけど……」


「えぇ?!」


「でも、もう治っているから」


「……転移した先で何があってん……あとで、詳しく教えぇよ」


 そう言ってから、

 トコは、センに視線を向けて、


「今回も、あんたに助けられた感じなん?」


「いや、俺は何もしていない。――ね、紅院さん。俺は何もしていませんよね? ね?」


「そうね。あなたは、命がけで私のヒーローになってくれただけ」


 その発言に対し、

 トコと茶柱が、ピクっと反応を見せた。


 そんな彼女たちを尻目に、

 センが、渋い顔で、


「約束ェ……」


 とダルそうにつぶやいてから、


「……つか、命は懸けてねぇじゃん」


「賭けようとはしてくれた。私を守るために……」


 そこで、紅院は、

 我慢できなくなったようで、

 ポロポロと大粒の涙をこぼしながら、


「ありがとう……ぁりがとう……」


 涙がにじむ感謝の言葉。

 そんなものを見せられても、

 セン的には戸惑うばかりで、

 だから、




「――用事を思い出した気がする!!」




 と、叫んでから、

 その場から逃げ出した。


 一目散の脱兎を魅せつけた『センの背中』を、

 サラっと見送ってから、

 茶柱が、


「さて……とりあえず、何があったか、詳しく教えてもらおうかにゃぁ」


 と、なんだか怖い顔で、

 紅院に、そう詰め寄った。


 その横に、ちょっと怖い顔をしているトコがいて、

 そんな彼女たちを、

 黒木は、『やれやれ顔』で見つめていた。


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