92話 感動した!

 92話 感動した!


「――『紅院美麗』の方が、はるかに価値がある」


 センのその言葉で、

 また、紅院の『奥』が震えた。

 言葉に出来ない情動ばかりが、

 紅院の全てを埋め尽くしていく。



「貴様の想いは美しい。感動した! というわけで、今回は、特別に、なかったことにしてやろう」



「……はぁ? なかったこと?」


「ふ、ふふ……私ほどの実力者ともなれば、召喚を拒否することも、不可能ではない……と言えなくもないのだ。というわけで、今回の件はなかったことにしておこうと思う」


 センの覚悟は留まることを知らない。

 恐怖を糧に、より大きな輝きを見せる。


 そんなセンの勢いに対し、

 ウボは、『焦り』を見せ始める。


「センエース、貴様の覚悟は素晴らしい。もちろん、闘えば、私の方が強いわけだが、その気概だけはあっぱれ。感動した!」


 もちろん、ギャグ漫画のように、

 『直接的な反応』を示すわけではないのだが、


 しかし、その声音には、考察不要の特異な色がにじみ出ていた。

 恐怖と焦燥。

 『外なる神』には似つかわしくない感情。


 ゆえに、センは、冷めた声で、


「……あのさ……最初から、ちょっとだけ思ってはいたんだけど……お前、本当にアウターゴッドか?」


「……ん?」


「俺は、アウターゴッドに関して、まったく知らんから、確かなことはなにも言えないんだが……イメージ的に、アウターゴッドって、もっと、神様然とした超越者なんじゃねぇの?」


「もちろんそうだとも」


「お前、小物感が、ちょっと強すぎる気がするんだが?」


「……愚か者め」


 そう言うと、

 ウボは、右手をパチンと鳴らした。


 すると、

 エアウィンドウが消滅し、


 かわりに、ジオメトリが出現する。


 そして、そのジオメトリの奥から、



「後悔するがいい。貴様はせっかくのチャンスを棒に振った」



 そう言いながら、

 ウボが登場した。


「……おお、なかなか大きいな。ビリビリと伝わってくる」


 そう言いながら、センは、


「……けど、アウターゴッドにしては、やっぱり、こじんまりしている気がするな……まあ、一度もアウターゴッドに会ったことがないから、実際のところは知らんけど」


「私がアウターゴッドだ! 果て無き領域にいる、外なる神! 私こそが!!」


 と、叫んでいるウボのふところに、

 センは、


「――シッ」


 呼吸一つを整えて、

 グンとのびやかに飛び込むと、

 そのままの勢いで、



「――神速一閃――」



 スピードに極振りした一閃を叩き込む。






「――どぅぉっっっ!!! ……あっ……あぉあ……」






 魂魄を一刀両断されたウボは、

 バタリと膝から崩れ落ち、


「……い、一撃だと……バカな……私は……『S級のGOO』だぞ……私を……一撃……そんな……そんな、アホな……」


「やっぱ、GOOじゃねぇか」


「ぁ、ありえない……神格の生命力は……膨大で…………な、なのに……人の手で……どうして……」


「さぁな、知らん。俺も俺が分からん」


「……」


「最後に教えてくれよ。お前の本当の名前は?」






「……イグ……」






 名前を口にしたところで力尽き、

 イグは完全に消滅してしまった。


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