91話 センエースのセリフは、基本、バグっている。

 91話 センエースのセリフは、基本、バグっている。


「――『自分の意見だけが世界の中心』をモットーに、人生をやらせてもらっている」


 などと、アホの顔で、


「ここで『お前を殺す』のは『やらされている感』が強すぎて死ぬほど不愉快だからイヤ。『アウターゴッドを殺すために命を賭す』ってのは、俺の『人生の結末的にクール』だからアリ。イヤかアリかの二択を前にした時、俺は、絶対にイヤを取らない。それが俺クオリティ。ひゅぅ、この自己中っぷり、たまんねぇなぁ、おい。そりゃ、友達が一人もいねぇわけだぜ」


 圧倒的に意味不明な論調。

 しかし、その背中は、驚くほど大きい。


「まあ、俺の意見とか考え方なんざ、実際のところは、どうだっていいんだ。今、お前が知っておくべきことは、ただ一つ。『俺の頑固さ』は、薬宮トコすら置き去りにしているという絶対的事実だけ。ゴチャゴチャ言わずに黙ってみてろ。そうすれば、どうにかしてやる。絶対に、なんとかしてやる。出来るかどうかは知らんが……最後の最後まで、俺は叫び続ける」


 そう言うと、センは目を閉じて、

 自分の奥へと深く入っていきつつ、


 ゆっくりと、息を吐いて、吸って、吐いて、

 そして、






「……ヒーロー見参……」



 そんな、センの覚悟を受けて、

 紅院の中で、何かが弾けた。


 心の場所と形がハッキリと分かる。

 ドクドクと脈打ちながら、

 命の理由を教えてくれる。


「……自分はヒーローじゃないって……さっき、言ったばかりじゃない……」


 ツーっと、涙が流れた。

 その理由は自分でも理解できなかった。

 とにかく意味は不明だが、

 今、紅院美麗の魂は、猛烈に昂(たかぶ)っていた。


「俺のセリフは、基本、バグっている。まともに受け取る方がバカを見る」


「……っ……」


 紅院の涙は止まらない。

 感動したとか、心が動いたとか、

 そういう次元ではない。


 命が満たされたのだ。


 知らない間に、気付かぬ間に、

 かわいてしまっていた紅院美麗の器が、

 あふれてこぼれるほどに、パンパンになっていた。


 自然と奥歯をかみしめてしまう。

 全身に力が入る。


 そんな彼女を尻目に、

 センは穏やかに武を構える。



「――そろそろ10分経過するだろ? さあ、やろう。ウボ=サスラ。俺は、弱いが……なかなかしつこいから、気合を入れて殺さないと、痛い目をみるぞ。俺はきっと、魂魄だけになっても喰らいつく」



「いい気概だ。それだけの魂魄を殺すのは惜しい」


 そう前を置いてから、

 ウボは、


「今ならまだ間に合う。はやく、その女を殺せ」


「俺の価値を惜しんでくれたのは素直に嬉しいが、しかし、俺の結論は変わらない」


「まあ、そう言わずに、考え直せ。私は命を殺したいわけではないのだ。その女一人で済むのであれば、安いものだろう。『60億』と『1』……どちらを選ぶかという、至極単純な功利の問題だ」


「トロッコ問題でよく言われることだが、大事なのは人数ではなく前提だ。俺の視点で言えば、『紅院美麗を生贄にしないと存続できないクソ世界』よりも、『紅院美麗』の方が、はるかに価値がある」


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