28話 重いよ、アルキさん。
28話 重いよ、アルキさん。
「バカなのか、お前は。なんで、わざわざ、綺麗な肌を傷つける必要がある。どこにその必然性があるんだ」
「あなた様に、わたくしの覚悟を理解していただくため。それと……これなら、彼女たちからのヘイトを買えそうでしょう?」
「……」
「これは、あなた様から受けた傷だと報告します。それと……」
そこで、アルキは、自分の小指を、
バキッっと、自分でへし折った。
「……これも……あなた様から受けた暴行の一つ……と、報告させて……いただきます」
脂汗を流し、
痛みに耐えながら、
しかし、まっすぐな目でそんなことをいう彼女に、
「……いや、お前……」
センのドン引きが止まらない。
そんなセンに、アルキは、
「――『愛する』という言葉の重みを、わたくしは理解しているつもりです。あなた様は、わたくしの覚悟を疑っていましたが、わたくしの『純潔をささげる』という覚悟は、わたくしの全てをささげるという意味です。痛みも苦しみも、すべて」
「……」
「多くの弱い命のために、その身の全てをささげてくださった尊い人……わたくしの愛しい人……あなた様に、わたくしの全てを捧げます」
「……重いよ、アルキさん……」
「――『顔だけの薄っぺらな男』を求めるような『軽い女』はお嫌いなのでしょう? あなた様の理想を叶えるため、わたくしは、いくらでも重くなりましょう」
「いや、別に、俺、重い女が好きとは言ってないんだよなぁ……あと、もう、ここまでくると、重いというか、怖いよ……」
「……確かに、おっしゃる通り、実行する前は、自分でも『やりすぎだろうか』と不安でした。けれど、今のあなた様の顔を見て、『やって良かった』と心から思っております。感じますよ。あなた様の、わたくしを見る目が、あきらかに変わった。あなた様の心に、間違いなく、わたくしの覚悟が刻まれた。もう、わたくしは、あなた様にとって、ただの女ではない」
「……俺の周りって、なんで、こんなやべぇ女しかいないんだ……」
などと言いながらも、
センは、彼女に対してドキドキしていた。
まだ、恋とか愛とか、そういうレベルに到っているわけではないが、
しかし、間違いなく、センの心には、彼女の覚悟が刻まれた。
愛してもらえたら、愛したくなる。
あまりにも一本気が過ぎる純粋理性の肯定。
(守りたいと思うものがまた増えた……紅院、薬宮、茶柱、黒木、カズナ、ゾーヤ、そして、五画寺……守りたいものが増えるほどに、どんどん、重たくなっていく……守らなければという責任と、守れなかったらという不安で押しつぶされそうになる……)
などと、心の中でつぶやいていると、
そこで、心の中にいる天童が、
(女子ばっかりだな)
などと茶々を入れてきたので、
(佐田倉や、紅院のオッサンも守りたいと思っているさ。あの二人も、俺に、色々と尽くしてくれた。俺を愛してくれた人のことは、できるだけ守りたいと思う)
(ナバイアや城西は?)
(……心底、どうでもいいなぁ……)
センエースは聖人ではないので、
『自分(セン)を大事だと思ってくれない相手』のことまで、
『大事なもの』として認識することは出来ない。
とはいえ、目の前で苦しんでいたら、
おそらく、手を伸ばすだろう。
そうやってセンは、これから先も生きていく。
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