56話 完全なる円。


 56話 完全なる円。


「せっかく、こうして挨拶にきてくれたことだし、ただで返すというのもなんだ。というわけで、なぞなぞを出すから、答えてくれ」


 そう言いながら、管理人は、内ポケットから取り出した『小さいメモ用紙』を、センに手渡す。



「定規を使わず、このかみだけを使って、そこそこ綺麗な直線を引くことは可能?」



 問われたセンは、

 その紙に強い折り目をつけてから、


「この折り目に沿って鉛筆を走らせれば直線を引けます」


「素晴らしい。では、本題にいこう。コンパスを使わず、そのかみだけを使って、放物線を描くことは可能?」


 問われたセンは、

 手の中の紙を丸めて、

 ポイっと、その辺に放り投げる。


 綺麗な放物線を描いて、地面に落ちる丸めた紙。


 それを見た管理人は、

 満足そうな顔で拍手をしてから、


「では、最終問題」


 そこで、コホンとセキをはさんでから、

 まっすぐな目で、センを見つめて、




「――人の手で、完全なる円を描くことは可能?」




「不可能」


「不正解だねぇ」


「なら、答えを教えてくれよ」


「それは、自分で見つけないといけないんだ」


 ニコっと微笑みながら、

 そんな発言をかましてから、


「それでは、さようなら。センエースくん」


「……さようなら」


 最後にそう言ってから、

 センは、管理人室を後にした。


 エレベーターに乗り込んだセンは、

 流れゆく景色を横目に、


(あのオッサン、あのやりとりを、毎回、強要してくるんだよなぁ……ウザいわぁ……)


 普通にウザいやりとりなので、

 これまで、何度か、途中で話の腰を折ったこともあるのだが、

 しかし、そうすると、その場で剣翼が舞ったりするため、

 しかたなく、センは、毎回、あの茶番に付き合ってあげている。


 ちなみに、めちゃめちゃ怪しいので、

 過去の一度、『ためしに、襲い掛かってみた』こともあるが、

 しかし、センが攻撃をしかけても、

 あのオッサンは、


『いやいやいや、えぇ?! なに、なに、なに?!』


 と、慌てふためくばかりで、

 特に反撃をしてきたりはしなかった。


 完璧な無抵抗を貫かれると、

 センとしては、何もできず、

 結局、


『あの、オッサン、全方位から、あやしいんだけどなぁ』


 と、勘ぐるだけにとどまっている。

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