73話 別次元のクオリティ。


 73話 別次元のクオリティ。


 閃拳ではない、ただのグーパン。

 『ラピッドがどうするのか』を見たがっているだけの一手。

 そんなセンの、遥かなる高みからの一手に対し、

 ラピッドは、


「ナメたまねをぉお!」


 憤怒を正しくエネルギーに変えて、

 センの拳に、カウンターの蹴りを合わせていく。


「ヒュゥ!」


 センは、楽しげに、口笛をふきながら、

 ラピッドの蹴りを、あえて、紙一重で回避しつつ、

 伸びのいいバックステップをはさんで、

 いい感じの距離をとってから、

 ラピッドに対し、


「いい動きだ……積み重ねてきたのが伝わってくる……」


 『本音』を口にした。

 『褒めている』というわけではない。

 ただ、思ったことを口にしただけ。


 夕焼けを見て、『めっちゃ赤いなぁ』と口にする、

 みたいな、そういう、たんなる直球の感想。


「壊れて膨れ上がっただけの『オメガども』とは違い、お前の攻撃は、それなりに重い……出力的には、オメガレベル500程度だが……しかし、『あのザコども』と違い、中身が濃い。薄っぺらな軽さを感じねぇ。丹念に積み上げてきた重みを感じる。お前みたいなのが、他に、少なくとも、35人はいる……それがゼノリカ……そう考えると、すげぇ組織だ」


 そこで、センは、ニィイイと、真っ黒な笑みを浮かべ、



「その全てを喰らい尽くせば、確かに、俺は、壁を超えられるかもしれない」



 などとつぶやきつつ、

 入念にストレッチをしていく。


「楽しみだ……俺の未来には希望しかねぇ。ゼノリカという極上のエサを平らげた時、いったい、俺はどうなっているのか……」


 そんなセンの発言に対し、

 ラピッドは、

 まっすぐに射貫くような瞳で、

 センを睨み、



「……イカれ野郎が……ゼノリカをナメるなよ」



 心からの言葉を放つ。


「ゼノリカとは……『全てを照らす光』という意味だ。あまたの絶望を、意地と覚悟で乗り越えてきた『命が放つ輝き』の結晶」


 『自分が所属する組織』に対する想いをぶつけるように、

 ラピッドは、


「貴様のような『イカれクソ野郎』に……ゼノリカが負けることなど、ありえない。あってはいけない!」


 魂魄を燃やす。

 本気の本気。

 手加減という概念を根こそぎ忘れ去る。



「僕は、ゼノリカの天上! 九華十傑の第十席序列35位! ラピッド・ヘルファイア! その意地と誇りにかけて、絶対に貴様をブチ殺ぉおおす!!」



 全身全霊の特攻。

 全てを賭した突撃。


 その『全力』に対し、

 センは、


「なるほど、美しいな」


 本音を口にする。


 ゼノリカの天上。

 その『輝き』を理解する。


「あの壊れたモンスターどもとは、『強さ』の次元が違う。『大きさ(サイズ)』では劣っているが、『質(クオリティ)』で言えば、てめぇの方がはるかに上だ。ラピッド・ヘルファイア。お前は強い」


 ラピッドの突撃を、サラリと交わすと同時、

 センは、彼の右腕をつかみ上げ、


「だが、そんなお前をも虫けら扱いできるぐらい……俺は強いんだ」


 言いながら、

 センは、螺旋を描き、

 ラピッドを、


「うぉおおああああああっっ!!」


 美しく、背負い投げしていく。

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