52話 300億。
52話 300億。
「300億か……300億ねぇ……」
口の中で、数字をころがす。
特に意味のない作業。
けど、突き詰めて言えば、
すべての作業に、意味などないのだろう。
――なんて、そんな、虚無感たっぷりの戯言でお茶を濁しながら、
センは、
「……同じ時間を積んだら、俺はあんたに勝てるのかな……」
ボソっと、そうつぶやいたセンに、
ヨグは、
「ああ」
と、とても短い言葉を返してきた。
それ以上は何も言わない。
たった一言の肯定。
「……あ、勝てるんだ、俺……」
軽く拍子抜けの表情をするセン。
てっきり、
『いくら時間を積もうが、貴様ごときが、私に勝つことなど不可能』
と言われるだろうと思っていた。
「同じ時間を積んだら勝てる……となると、あんたは俺よりポテンシャル的なものが低いってことになるけど、いいのか、それでも」
「私など、結局のところは、その程度の存在だ。自分を弱者だとは思っていないが、しかし、所詮は、『強者(きょうしゃ)足(た)れ』と『創造されただけ』の『オモチャ』でしかない」
「……ずいぶんと卑屈だな」
「感情は含めていない。私は、ただの事実を口にしている。私は、いつだって事実だけを口にする」
「……あ、そう」
「貴様のポテンシャルは私以上だ。それは認める。だが、150年しか積んでいない貴様が、300億年を積んだ私に勝てる道理はない」
「……事実だねぇ。反論の余地がなさすぎて萎える……」
そこで、ヨグは、パチンと指を鳴らした。
すると、センの両手両足と心臓が元に戻った。
あっさりとしたものだった。
「……おっと……なんで、回復してくれた?」
「私はオモチャだが、しかし、ただのオモチャではないということを、教えてやりたいと思った」
そう言いながら、
ヨグは、全身に力を込めて、
「――真・究極超神化7――」
すさまじいエネルギーに包まれる。
化け物が、もっと化け物になった瞬間。
恐ろしさで、センは、身がすくんだ。
脳の最奥が逃亡要請を叫んでいた。
「えっと、あの……ヨグさん……それは、その……7段階目の変身、と解釈してよろしいんでしょうか?」
「いや、二段階目の変身だ。私は、まだ、変身を6回残している」
「……そ、その段階でも、明らかに、余裕で俺を置き去りにしているのに……まだ『2段階目』……うそだろ……たまんねぇな、おい」
絶望感に包まれるセンだったが、
「最後に、一時間をくれてやる。一時間は反撃をしない。もし、私に一撃でもあたえることができたら、生かしてかえしてやる」
ヨグがそんなことを言ったものだから、
「……ぇ……」
センの瞳に希望が戻る。
わずかだった希望が、大きな光になる。
「…………言ったな」
センは、ニっと笑ってから、
全身にオーラと魔力を充満させる。
「一撃だな……了解。OK。了承した。把握した」
言葉を並べてから、
センは、グっと腰を落として、
両の拳をかたく、かたく、かたく、握りしめ、
「よかった……なんとか、生きて帰れそうだ」
最後にそうつぶやき、
センは線になった。
駆け抜けた後に残る残像が光の糸をひく。
豪速で距離を殺したセンは、
無数の拳をヨグにささげた。
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