51話 150。


 51話 150。


(考えろ……どうする……どうすれば……こいつをどうにかできる……?)


 覚醒後のハイな状態も既に落ち着いて、

 過剰なエネルギーは既に霧散した。


 あとは、新たな力を、自分の中に落とし込む作業が残るだけ。

 こんな状態で、『次』を求めることはできない。


(覚醒はもう無理だ……もうない……これまでに積んだものは、全て吐き出してしまった……)


 この地獄は、前にも経験した。

 だから、慣れてはいる。

 慣れてはいるが、

 だからといって、スムーズに処理できるかというと、

 やはり、そういうわけでもない。


(どうする、どうする、どうする、どうする、どうする、どうする、どうする、どうする、どうする、どうする)


 頭がぶっ壊れるほどに、

 センは必死になって道を探す。


 だが、ない。

 勝てない。



「積み重ねたものが足りない……ち、ちくしょう、ふざけんな。これまでの人生で、どんだけの地獄を重ねてきたと思っている……同じ一週間を5000回も繰り返したんだぞ。そのうちの3回は、一週間じゃなく、20年だった。ようするに、ほぼ150年だ……150年だぞ……150年も地獄を積んできたのに、こんな……くそがぁ……」


 センが、ギリギリと奥歯をかみしめながら、

 自分の不遇を漏らしていると、

 それを聞いたヨグが、



「150年か。ちっぽけな数字だな」



 どこか遠くをみながら、


「私は、その2億倍は地獄を積んできたぞ」


 そんなことを口にした。


 ヨグの言葉に対し、センは、心底しんどそうな顔をして、


「……300億年もの長い間、ほんと、ごくろうさん。はいはい、すごい、すごい」


 と、呆れた感じで拍手をしてみせる。


「信じていないようだな」


「いや、信じているとか、信じていないとか、そういう領域でモノを語る気はいっさいない。今の俺は『まったく、ピンときていない』というステージでさまよっている。『億』って単位の時間を積むのがどれだけのことなのか、しょせん、凡人でしかない俺に理解できるはずがないんだよ。そこらのアリに相対性理論を説明したところで、キョトンとされるだけだろ? そんな感じだ」


 『倍』とか、『10倍』とか言われていたならば、

 まだ、ぎりぎり『理解しようとあがける範囲内』だったが、

 『億』という単位を使われてしまうと、さすがにお手上げ。


「あんたが、マジで、300億年を費やしたというのであれば……俺が、あんたに勝てる道理はない。俺には、『150年も積んだ』という誇りしかない。それだけが全部で、それ以外には何もない」


 まっすぐな言葉で、センは、


「300億……俺には絶対に無理な数字だ……その10分の1だって無理だ。100分の1だって無理だろうぜ。だって、100分の1でも、これまでに俺が積んできた時間の200万倍だぜ……もう、数字がでかすぎて、ほんとに、わけがわからんよ……えっと、今、俺達は、なんの話をしているんだっけ? ジンバブエドルのインフレについてだっけ?」


 ため息をついて、天を仰ぐ。

 頭の中が大量の『0』でぐちゃぐちゃ。

 200万だの、300億だの、

 そんな数字は、人間の想像力で処理できる範疇ではない。



「300億か……300億ねぇ……」


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