80話 ニャルの悪意。


 80話 ニャルの悪意。


「あなたたちも知っているはずだよね? なのに、さっきの茶番はなに?」


(旦那と話し合いがしたかっただけ。言いたいことは山ほどあるのに、平場じゃ、なかなか言えないことも多いから、この状況を利用させてもらった。それだけ)


「相変わらず、クソしたたかな女だね。精神面がバグっているマイマスターの伴侶にはふさわしいと思うけど、人間的には嫌いかな」


 そう言い捨ててから、

 ルナは、センに意識を戻し、


「改めて言うよ、マイマスター。あなたはすでに積み上げてきた。その軌跡は、誰にもマネできない、あなただけの道程。だからたどり着ける。誰も届かなかった『あの丘』の向こうに」


「……無限の地獄に関してはともかく、俺の記憶が世界から消えるとか、K5の面々に男ができるとか、その辺のあれこれは?」


「あんなもんは、デス○ートの13日ルールみたいなものだよ。一言で言えば、悪意でいっぱいの嘘」


「……」


「一つだけ言っておくと、あれも、別に、無意味な嘘ってワケじゃない。必要な嘘だった。ニャルの悪意を受け止める必要があった。マイマスター、あなたは、過酷な運命の全てに、根性一つでうちかった。だから飛べる」


 言葉が、センエースの中で、形になっていく。


 ルナに続くように、

 彼女たちも、


(――あなたは飛べる――)


 センエースの器として、

 より強く支えるという意志を示しつつ、


(――あたしたちのヒーローは、誰よりも高く飛べる――)


 信念に昇華された願いを世界に刻み込む。

 すべてが、高次のアリア・ギアスになっていく。


 感情の正念場。

 命の華が萌ゆる。


(――あたしたちの全部を、あなたに捧げる――)


 無数の想いが、一つになっていく。


(ここから先も、あなたは、きっと、多くの地獄に苛(さいな)まれていく。命の最前線、絶望の鉄火場でもがき、あがき、苦しみ続ける。けど、もう、二度と、独りで背負わせたりしない。一番大きな責任は、あなたしか背負えないから、泣く泣く譲るけど、それ以外の全部をもらう。あなたの側(そば)には、いつだって、必ず、私がいる)


 ぶっちぎった覚悟を宣言。

 ジャンキーとも、狂信者とも違う、

 もう一歩踏み込んだ狂い方をした瞳。

 そんな、イカれた眼差(まなざ)しのまま、彼女は言う。



(――愛している。あなたを。あたしたちの全部が、あなたを求めている――)



 ぶつけられた無数の感情。

 それらは、まるで、振り下ろされた鈍器のように、

 重たく、強く、ガツンと、センの心に届く。


「……注がれていく……」


 理解と感情が統一されていく。

 伝わってくる。


 それは、希望のカケラ。

 願いの結晶。

 命がけの激励。


 魂魄が、これでもかと沸騰している。


 彼女たちは、

 重なり合って、

 センに全部を注ぎ込む。



(――あなただけが本物のヒーロー。この世界でもっとも尊い閃光――)



 すべての想いを注がれたセンは、

 今にも溢れ、こぼれだしそうな想いを、両手いっぱいにかかえながら、


「……俺はヒーローじゃない。それが事実。それが現実」


 沸騰した想いが新しい器になる。

 その器を覚悟でひたひたに満たす。

 その器をのぞきこんでみると、そこには、


「それでもなくさなかった勇気を」


 センは全身に力を籠める。


「記憶も数値も全てなくして、しかし、それでも、なくさなかった想いを、すべて集めて、今日も俺は、とびっきりのウソをつく」


 バカみたいな前提を山ほど積んで、

 まっすぐな視点で世界を睨みつけて、





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「――(――【【ヒーロー見参】】――)――」

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