29話 うそぴょん。


 29話 うそぴょん。


「……最後に、もう一つだけ聞いておく」


「なにかな?」



「あれは、本当に、『ただの夢』だったのか? いや、オメガレベルが残っているというのが事実なら、ただの夢ではないんだろうけど……そういう意味じゃなく……『世界そのもの』の事が知りたくて……その、なんていうか……実は、『完全な夢』ではなく、『実際に存在するパラレルワールドに連れていかれていた』……みたいな、そんなオチってわけじゃないか?」



「よくわかったね。あれは、夢なんかじゃなく、とある世界線の近未来さ」


「?! 本当に? じゃあ――」


 と、言葉を繋ごうとしたところで、

 ニャルは、道化のポーズを決めながら、


「うっそぴょーん」


 と、腹立つ顔で、そう言った。


「……おい、ごら……」


 と、切れそうになるセンに、

 ニャルは、ちょっとポーズを変えて、

 さらに、もっと腹立つ顔をして、


「うっそぴょーん」


 と、同じことを二回言った。


「なんで、二回言った? どういうことだ? 大事なことなので、二回言ったのか? それとも……『嘘だと言ったことが嘘だ』ってことか?」


 その問いかけに答えることなく、

 というか、『答える気はない』ということを示すように、

 ニャルは、


「ふぁぁーあ」


 と、大きなアクビをかましてみせた。


 そのわかりやすい『会話終了』の態度を見て、

 センは、


「……ちっ」


 それ以上追求する無意味さを悟り、舌打ちをはさむだけで押し黙る。


 そんなセンを横目に、

 ニャルは、


「さぁて、と。それじゃあ、君との会話も飽きてきたから、そろそろ帰るね。ばいばーい」


 と言って去っていこうとする。

 その背中に、センは、


「おい、ちょっと、ニャル!」


「もー、なにー? もう、何も答える気はないよ? 嘘と言ったのが嘘なのか、それとも、本当にただの嘘なのか、それは自分自身の未来で確かめ――」


「いや、その話じゃなくて……黒木はどうした? さっきから、いっこうに見当たらないんだが……」


「ん? ぁ、ああ……はは、普通に、忘れていたよ。彼女、存在感が薄いから、未来に置いてきちゃった。ははは」


「ははは、じゃねぇよ。あいつを、雑なオチに使うんじゃねぇ、かわいそうだろうが。つぅか、やっぱり、嘘っていうのが嘘で、あの世界は、マジの未来だったんかい!」


「さ、さぁて、それはどうかなぁ」


 そう言いながら、ニャルは、

 逃げるように、瞬間移動で、この場から去っていった。


 その数秒後、

 次元に亀裂が入った……

 かと思った直後、

 その亀裂の向こうから、

 ペっと、雑に黒木が吐き出される。


「ん……んー……?」


 軽く意識が朦朧としている状態の黒木を、

 センは、


「……」


 数秒だけ、無言で観察してから、

 『ニャルに対する思考のアレコレ』を、

 いったん、横に置いて、


「生きてるかー?」


 と、雑に尋ねる。


「……し、死んではいませんが……えっと……これ、どういう状況ですか?」


「それを説明する前に、一つ聞かせろ。どこまで覚えている?」


「あなたが、バロール杯とかいう大会に参加することになって……それから……確か、すごく眠くなったから、昼寝をしようとして……それで……えっと……そこまでの記憶しかないですね」


「なるほど、昼寝中に回収されたわけか……そりゃ、困惑も一際(ひときわ)だろうぜ」


 などと、心底どうでもよさそうな相槌をうつセンに、


「……寝ている間に、妙な夢を見ていました。内容を聞きますか?」


「他人の夢に興味を示すほどヒマじゃねぇ」


 そう言って、センは、黒木に背中を向けて歩き始めた。

 そんなセンの背中を見つめながら、

 黒木は、ボソっと、



「――あなたに食べられる夢を見ていました」



 と、小さな声でつぶやいた。



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