30話 すごく魅力的な提案。


 30話 すごく魅力的な提案。


「この迷宮をクリアした者には、世界を再構築する権利が与えられるんでちゅよ。オイちゃんはすでにクリアしていまちゅ。だから、あとは、更地にしたいと願ってから、設計するだけでちゅね」


「……願うだけでいいのか? おやおや。そうなると、止められねぇなぁ。願われる前に首を落とすしかない感じ? やだなぁ」


 そんな発言をくりだしたセンに、

 終理は、


「まあ、実のところ、カギが一つたりないから、今の状況では出来ないんでちゅけどねぇ」


「鍵ねぇ……その鍵とやらが、どこの何なのかは知っているのか?」


「この迷宮の設計者。そして、それは、おそらく、才藤零児たんでちゅ」


「……この迷宮って、才藤がつくったの?」


「おそらく、そうだと思いまちゅよ」


「……ふぅん……」


 天を見上げて、うなずきながら、


「なるほど。だいたいのことは分かった」


「なにが分かったんでちゅか?」


「この世界の全体像。……ただ、俺が何をすべきかは、ちょっと分からねぇなぁ……ゴールはどこにあるんだろうねぇ……すでに、迷宮はクリア済み。どうやらラスボスっぽい酒神も倒した。ふむ……俺のゴールはいずこ……」


「ゴールは、世界の改変でちゅよ。よりよい世界に創りなおして、ハッピーエンドを迎えること。それこそが、何よりのゴールでしゅ」


「……ふむ。まあ、お前がそう思うんならそうなんだろう。お前の中ではな」


「どうでちゅ? オイちゃんと共に、世界を創りなおしまちぇんか? オイちゃんに、メインの部分の設計を担当させてくれるなら、次の世界を、センたんにとって理想の世界にしてあげてもかまいまちぇんよ」


「理想の世界か……悪くないな」


「なんでも思いのままでちゅよ。童貞を卒業するもよし。ハーレムをつくるもよし。顔面偏差値の低さをいじられない世界で、自由に、豊かに、楽しく、毎日を過ごしてみまちぇんか?」


「すごく魅力的な提案を受けているはずだが、前提にされている部分が腹立たしすぎて、一ミリも嬉しいという感情がわいてこない。普通に腹立つ」


 思ったことを、そのまま口にしてから、

 センは、終理に視線を向けて、


「とりあえず、楽しいとか、豊かとか、そういうのよりもまず、静かな世界がいいな」


「無音の世界がいいんでちゅか? それが、どうしても叶えたいセンたんの望みだというのなら、仕方ないでちゅけど……なんだか、つまらなそうでちゅねぇ。オイちゃん、無声映画とか、ああいうの、ちょっと苦手なんでちゅよ。できれば、オイちゃんにふさわしい、盛大な音楽に包まれていたいでちゅ。あと、筆談しかコミュニケーションの手段がなくなるのも、かなりキツいでちゅねぇ」


「いや、無音の世界なんか望んでねぇよ。俺が静かに暮らせる世界ってことだ。ハーレムなんてマジでごめんだ。なんで、周囲に、他人を複数人も配置しないといけないんだ」


 『楽しさ』も『豊かさ』も、

 『欲しい』・『欲しくない』の二つでとらえれば、

 もちろん、欲しいに分類されるが、


 それよりも、何よりも、

 センには、絶対に譲れない条件がある。

 そこが満たされてからがはじまり。

 他の全部は、オマケにすぎない。


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