34話 不倶戴天(ふぐたいてん)の風刺。
34話 不倶戴天(ふぐたいてん)の風刺。
オメガタワーに到着し、
いつも通り、管理人に会いに行ったセン。
サラっと、いつもの、『線がどうこう』『円がどうこう』という、なぞなぞ&禅問答を終わらせて、帰ろうとしたところで、
「――大事な人に嫌われたら、君はどう思う?」
などと、質問をしてきたので、
センは、一瞬、怪訝な顔をしてみせた。
(……こんなことを言ってきたのは、これまでのループの中ではじめてだな……)
管理人のセリフは、いつも、ほとんど同じ。
ほんのちょっと言い回しが変わったり、タイミングが変わったりすることはあったが、基本的に、流れと中身は同じだった。
(今回に限って逸脱してきた……そこにある理由は……)
などと、センは、管理人の質問ではなく、
『流れが変わったこと』に対して頭をつかう。
そんなセンに、
管理人は、まっすぐな視線を向けて、
「大事な質問だ。ちゃんと考えなさい。センエース」
と、まるで直属の上司のように、
そんな言葉を投げかけてきた。
上位者としての態度ではなく、
経験者としての態度でもって。
「……」
あまりにも真剣な瞳だったので、
センも、つい、まっすぐな目になってしまう。
空気がチャラけている時は、
とことん、ふにゃふにゃしている男だが、
相手が本気で対峙してきた時は、
それ以上のガチンコで返していくのがセンの流儀。
管理人は、空気を整理するように、
「もう一度聞く。大事な人に嫌われたら、君はどう思う? 『大事な人に嫌われた時、君はどうするか』という質問と捉えてくれてもかまわない」
その問いに対し、センは、二秒ほど間を置いて、
「……別にどうもしない」
真摯に、言葉を選びながら、
「必要なタスクをこなしていくだけだ。そうやって、俺は、ずっと生きてきた。これからも、そうやって生きていく」
「その生き方は辛くないかい?」
「辛くない生き方なんてあるのか? なにをどうすれば苦しまない生き方になる? 俺は、なんの悩みもなく人生を謳歌しているやつってのを、これまでの人生で、一人として見たことがないんだが」
「確かに、たいていの人間は、苦しみながら生きているな……なんで、みんな、苦しみながら、それでも、生きていこうとするんだろうな……」
「知らん。悟りを開く気はないから。昔のエロい人が、『釈迦といういたずら者が世にいでて、多くの人を迷わせるかな』という名言を残したが、あんたの質問には、その名言をたたきつけたいね」
命の意味など考えているほどヒマじゃない。
賢(さか)しらなアイロニーだけが世界を翻弄している。
バカバカしすぎて、ファントムトークを使うことすらはばかられる。
「命の理不尽に対し、お行儀のいい理由をつけようとあがいたところで、余計に混乱するだけだ。俺は説法で取り繕ったりはしない。純粋な暴力を磨いてブチ殺す。魂の研鑽を積み重ねて圧殺する。俺を苦しめる不条理の全部を……意地と努力で皆殺しにしてやる」
「楽しい覚悟だ。君は面白い」
そう言って、
管理人は、心底楽しそうに、ニコっと微笑んだ。
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