33話 ……辛いなぁ……


 33話 ……辛いなぁ……


「面倒事は、俺が、全部引き受けているんだから! せめて、てめぇらには、俺を喜ばせるピエロの役割ぐらいは果たしてもらわにゃぁな!」


 センは止まらない。

 12000%を目指して駆け抜ける。


「てめぇらみたいな無能のカス女にできることといったら、そのぐらいが精々だろう! というわけで、そこの気色悪い緑色! 俺に感謝の言葉を述べろ。『センエース様、ありがとうございます。なにもかもすべて、あなた様のおかげです。素敵。抱いて』――はい、リピートアフタミッ、セイッ!」


「……」


「どうした、グリーン! 命の王である、このセンエース様が感謝の言葉を述べろと言っているのだ! こうべをたれてつくばえ!」


「……なんだか、可哀そうで見てられないにゃ」


 そう言ってから、ツミカは目を閉じて押し黙った。

 いつもはゴチャゴチャと、クソやかましい、その口を真一文字にして、

 センを意識から外そうとしているように見える。


 そんな彼女を横目に、

 それまで黙っていた紅院が、


「……センエース様。なにもかも、すべて、あなたのおかげです。ありがとうございます」


 そう言って、深々と頭を下げた。

 少し、体が震えている。

 彼女もプライドが高いので、言いたいことは山ほどあるのだが、

 しかし、この状況では何も言えないから、ただ震えている。


 ――そして、彼女の『奥』では、ただの恥辱だけではなく、

 もっと、深い絶望に属する何かが蠢いていて、

 その不快感に嗚咽しそうになりながらも、


「この世界を救っていただけていること……心から……感謝しております……」


 徹底して下手に出る紅院。

 続いて、トコと黒木も、頭を下げた。


 黙って目を閉じている茶柱と、

 頭を下げている三人。


 そんなK5を見ながら、

 センは、心の中で、


(……ああ……辛いなぁ……)


 ただの本音をつぶやいていた。


 ここまで、とにかく『嫌われること』に必死で駆け抜けてきたため、

 目の前の現実を直視できていなかった。


 しかし、あらためて、じっくりと、この状況と向き合ったことで、

 センは、純粋な『辛さ』に苛まれる。

 当たり前の話だが、『大事な人から嫌われる』のは苦しい。

 ここまで、必死になって頑張ってきた理由は、

 彼女たちを守りたいから。


 無限ループの底に沈んで、地獄をかけずりまわって、

 それでも救いたいと願うほどの相手に、

 とことん嫌われなければいけない、

 という、暗闇の底で、センは、普通に泣きそうになった。


 本当に苦しくてたまらない。

 『なんでこんなことをしなければいけないんだ』という嘆きが止まらない。

 あまりにも辛すぎて、涙が溢れそうになった――が、

 寸でのところで、センは我慢した。


 そして、自分に言い聞かせる。

 二度と無様は晒さないと誓っただろう。

 俺は、すでに、ヒーロー見参を叫んでいる。

 最後まで、『ピエロ(ヒーロー)』であり続けろ。

 ――と、必死になって自分に言い聞かせる。


 奥歯をかみしめて、


(失いたくない……それが、俺の中で、一番大事なワガママだ……他はどうでもいい……こいつらが、俺を憎もうが、嫌おうが、知った事か……失わずにすむのであれば、救えるのであれば……全部、背負ってやるよ……憎悪も嫌悪も忌避も蔑視も、全部受け止めて、俺は前に行く)

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