11話 紅院美麗は、昔も今も変わらない。

 11話 紅院美麗は、昔も今も変わらない。


「相手は、あの挙茂悟大先生やで? 今までの、残念教師どもみたいな、テキトーな対応はせぇへんやろ」


「あんたの、その、挙茂に対する、絶大な信頼はなんなの?」


「マジメにやってくれとんのやったら、文句を言う必要はないやろってだけの話や。テキトーされたら、あたしかて、ムカつくけど、先生はガチンコでやってくれとるやないか。信頼せぇとは言わんけど、その努力を、普通に認めるくらいはしたったれよ。そこの線引きがなかったら、ほんまに、ただの『クソ勘違いしたキチ〇イクレーマー』に成り果てるで」


「やれやれ……『妹』の立場だと、気楽でいいわね。『姉』として、一言言わせてもらうけど、あんたは、ちょっと危機感が足りないわ」


「誰が姉妹じゃい。勝手に親族にすな」


「十年以上同じ家で暮らしてきたのだから、ほとんど姉妹みたいなものじゃない。なんだかんだで、血だって、そろそろ繋がっているはずだわ」


「なに、猟奇的な事言うてんねん。見てみぃ、この鳥肌。どないしてくれんねん」


 トコは、五歳の頃に両親を亡くしており、かつ、当時の周囲にいたのは、彼女の存在を消して会社だけを奪おうとするゴミばかりだった。


 そんな絶望的状況に陥ったトコに救いの手を差し伸べたのが、薬宮家と戦前から付き合いのある紅院家だった。


 結果的には『吸収されるという形』になったし、

 現時点での経営は、紅院の上層部が行っているが、

 今でも、『薬宮製薬』の『実質的な権利』は、トコにある。


 それは、『紅院家の判断』ではなく、

 ミレーの『彼女に対する愛情』から。


 紅院家の『上層部の方針』としては、

 機に乗じて薬宮の会社を完全に奪い取る気でいたのだが、

 ミレーが、とんでもない勢いでゴネたため、

 トコの権利は、完璧に守られることになった。


『トコから全てを奪い取って得る【ちょっとした利益】と【紅院美麗の本気の怒り】……どっちを取るか、真剣に考えて決めなさい。私を子供だと思ってナメてかかるなら、それでもいい。ただし、私は、私を本気で怒らせた人間の名前を決して忘れない。私をナメたツケは必ず払ってもらう。私が大人になった時、あなたたちの居場所が、紅院家にあると決して思うな』


 正直、簡単は話ではなかった。

 かなりのゴタゴタがあった。

 上層部の連中は、どうにか、美麗を丸め込もうと、

 ありとあらゆる手段を使ったが、


『黙れ、クズども。無数の言葉を使って畳みかければ、子供の一人くらい騙せるだろう、という薄ら寒い本音がすすけて見える。それ以上、一言でも口を開けば、私は、貴様らを私の主敵だと認識する。ここから先、私が貴様らに許すのは、首を動かす権利だけだ。私の質問に対して、首を横に振るか、縦にふるか、決死の覚悟を決めて答えろ。――あくまでも、私を怒らせるか? それとも否か? どっちだ?!』


 結果的には、『最終的に紅院家の実権を握ることが確定しているミレー』の『本気の願い』を無碍(むげ)に切って『ガチンコで怒らせる』よりも、薬宮の会社をそのまま残して内部に抱えるという形にした方が、結果的には、紅院家としても益がある。

 ――という判断が下された。


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