56話 非常に優れた男、城西。

 56話 非常に優れた男、城西。



「そんなマジの顔で言われたら、もう、何も言えねぇなぁ……」


「嫌いな相手と別れると言うだけで3000万が手に入るんだ。これ以上ない話だろ? 言っておくが、3000万という額は、一般人の視点で言えば、かなりの大金だ。一サラリーマンが、それだけの貯金をつくるには、数十年を積む必要が――」


「言われなくてもわかっているよ。カ〇ジの鉄骨編を読んでいるからな」


 そう言いながら、

 閃は、小切手の裏表をまじまじと見つめ、


「いやぁ、まさか、小切手をもらう日がくるとは思っていなかったな。くく……この小切手は、なんか、面白いから一応、貰っておく。換金する気はないから、決済できないよう、一本、電話しとけよ。この千円は、さっき殴られた分の慰謝料としてもらっておく」


 そう言いながら、懐におさめるセンに、

 城西は、


「……嫌いなんだろ? 罪華さんのこと」


「ああ、嫌いだね。あいつとは、ソリが合わない」


「……じゃあ、なぜ、そこまで、頑なに拒む?」


「ん? んー……」


 そこで、センは、数秒悩んでから、


「お前なら、どうする?」


「……は?」


「茶柱と別れろと3000万の小切手を渡されたら、お前ならどうする?」


「破り捨てるさ」


「それと同じだ。ほぼ、な」


「……」


「納得していただけたかな?」


「……なら……痛い目をみてもらうことになる」


 そう言いながら、

 城西は、ポケットから取り出した黒い手袋をはめて、


「俺のメイン職業は『ナイト』では無く『プリンス』だが……俺も、彼女の隣に立つ男を目指しているんでね。当然、『肉壁専用のボディーガード連中』に交じって、厳しい訓練を受けている。ちなみに、空手だけだが、フルコンタクトの黒帯だ」


「黒帯って、そんなポンポンとれるもんなの?」


「ウチの流派は厳しいから、12年が相場だが、血反吐はくほど努力した結果、8年で黒を巻けるようになった」


「……」


「覚悟が違うんだよ。お前とは。何もかも」


 その話を聞いたセンは、まっすぐな目で、


「城西、お前……確か、成績もトップクラスだったっけ?」


「学年6位だ」


 1位 黒木・薬宮(同率、満点)。

 3位 紅院。

 4位 茶柱(全教科、白紙提出ゆえ)。

 5位 蓮手。

 6位 城西。


「すげぇな……ほんと、頑張っていると思うよ、お前。勉強も、運動も……ていうか、お前ら親衛隊の連中、全員、頑張っているよな……すげぇよ、ほんと……」


 そうつぶやきながら、

 センは、自分の両手を見つめ、


「俺は『そういう意味での努力』は積んでこなかった……お前の言う通り、そっちの意味での覚悟は、まったく足りてねぇ……」


 そこで、グっと顎をあげて、


「でも、だからって、引く理由にはならねぇ。俺は、いつだって、俺のやりたいようにやるだけさ」


 そう言いながら、

 ゆったりと武を構える。


「俺から殴り掛かることはしない……だが、殴り掛かってくるなら、殴り返す。今度は黙って殴られてやらねぇ。サービスタイムは終わったのさ」

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