56+話 やめて、私のために争わないで!

 56+話 やめて、私のために争わないで!


「今度は黙って殴られてやらねぇ」


「ナメるなよ、ガリ勉野郎……」


「たぶん、俺より、お前の方が勉強していると思うから、その罵倒は、正しくないような気がするが……」


「ナメるなよ、『ガリ勉のくせに俺より成績低い野郎』……」


「……何も間違ってないけど、腹立つな」


 そこで、両者は押し黙る。


 静かな緊張が走って、

 空気の音が、互いの耳をつく。


 ――と、

 その時、




「やめて! ツミカさんのために、争わないで!!」




 そんな声が響いた。


 反射的に、両者、

 声のする方に振り替えると、


 そこでは、レトロなゲームボーイをピコピコやっている茶柱がいた。

 その雰囲気からは、センと城西に対する興味を微塵も感じない。


 センは、イラっとした表情で、


「そういう『劇場型のセリフ』は、ちゃんと俺たちの目を見て言おうか」


 そう言うと、茶柱は、

 ゲームボーイの画面に釘付けになったまま、


「ダーリンの目が凛々しすぎて、そっちを見られないにゃ……ふっ」


「鼻で笑いながら言うんじゃねぇ」


「ああ、ダーリン、あなたはどうして、そんなにカッコいいのかにゃ……何がどうとは言えないし、造形的にはキショいし、全体としては見るに堪えないけど、とにもかくにも、カッコ良すぎる気がしないでもない今日この頃だにゃぁ」


「……お前が、俺の容姿に大いなる不満を抱えていることだけはよくわかった」


「不満はないにゃ。不愉快なだけだにゃ」


「よけいにタチが悪いな……」


 そこで、放置されていた城西が、


「罪華さん……あなたは、閃の事が嫌いなんですか?」


「キライではないにゃ。ただ、色々と、虫唾が走る箇所が多くて困ってはいるにゃ」


 その発言に対し、センはため息交じりにつぶやく。


「キライの方がまだマシと思える辛口判定だな」


 などと言葉を交わし合っている二人。

 城西は、茶柱に視線をロックして、


「では、閃と付き合っているというのは、やはり、嘘なのですか?」


「嘘ではないにゃ。まことに遺憾ながら、その男は、一応、ツミカさんの彼氏ということになっているにゃ。その男が、どーーーーーしても、ツミカさんと付き合いたいと、10時間耐久の土下寝(どげね)までしてきたから、つい、可哀そうになって、仕方なく付き合ってあげている、みたいな感じだにゃ」


「すげぇな……今、口に出したこと全部がウソじゃねぇか。人の性根ってのは、そこまで、しっかりと腐ることが出来るものなのか……今、俺は、ドン引きの向こう側に立っている……」


 愕然としているセンに、

 城西は、


「10時間の土下寝だと……お前、正気か?」


「あそこにいる『ハンパじゃない嘘つき』と『お前』よりは、まだ正気だ。実際の話、俺の頭も相当に歪んではいるものの、しかし、さすがの俺でも、お前らより下にはいない。お前らの存在は俺の太陽だ。おかげで、強く生きていける。自分より下がいるんだと思えるだけで、こんなにも心が楽になると教えてくれてありがとう」


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