11話 感情論のカフカ。


 11話 感情論のカフカ。



「……ごめん……」


 力なく、その場でへたりこんだセン。

 センは、数秒、糸の切れた人形みたいにうなだれていたが、


 おもむろに、スマホを取り出すと、

 そのまま、黒木に電話をかける。


 着拒されているかと思ったが、

 普通につながった。


『……はい……』


 警戒心全開で電話に出た黒木に、


「……お前の携帯ドラゴンで、佐田倉の爪を治してやってくれ。八つ当たりで、つい、爪をはがしてしまった」


『……ぇ……ぁ……ぇ……』


 発言の全てが、あまりにも突飛かつ猟奇的だったため、

 脳の処理が追い付いていない様子の黒木。


 しかし、もともとの頭の出来が違うのか、

 割と、すぐに、冷静さを取り戻した黒木は、


『……さ、佐田倉さんは……携帯ドラゴンの存在を知りません。ですので、携帯ドラゴンを使っての治癒は……その……許されて――』


 と、杓子定規なことをほざきだした黒木に、


「お前が小三の時に書いていた自作小説の主人公の名前は……ソンキー・ウルギ・アース……間違いないな?」


『……っ?!』



「よく聞け。俺は『数日後の未来』からタイムリープしてきた。今回のループで、この一連の騒動を解決することはできないから、数日たったら、またループする。というわけで、俺的に『どうでもいい規則』を守る気はない。お前も、律儀に、300人委員会のアレコレを気にしなくていい。どうせ、全てリセットされるんだから」


『……』


「つぅか、命令だ。佐田倉の爪を治せ」


『……あなたの話が本当なら、佐田倉さんの様態もリセットされるので、治す必要などないのでは?』


「必要があるかどうかの話はしてねぇ。このままだと、俺の気分が悪いから、治せと、身勝手な命令をしている。他に何か聞きたいことは?」


『……もちろん、たくさんあります。あなたの正体とか、いろいろ』


「それは、会って話す」


 強い口調でそう言ってから、センは電話を切った。


 その様子をずっと見ていた佐田倉は、

 渋い顔で、


「お前は……なんだ? ほんとうに……なんなんだ……?」


「言っただろ。ただの、どこにでもいる、男子高校生タイムリーパーだ。実は、お前とも、何度か話している。K5の事情についても、いろいろと知っている。俺は、300人委員会にカチこみをかけたことすらあるんだ」


「……」


「もうすでに、同じ一週間を、300回ぐらいループしてきた……だから……ちょっと、疲れて、八つ当たりをした……悪かった」


「……同じ一週間を300回……な、なんで……そんな……なんのため――」


「一週間後に人類は絶滅する」


「……は?」


「俺以外、全員死ぬ。その地獄を回避するため、俺は、ループし続けている」


「……全員……死ぬ? ……ちょっ……えっ……いや、あの……情報量が多すぎて……理解が……おいつか――」


「理解する必要はない。どうせ、リセットされる」


「……」


 佐田倉は、センの言葉を、

 必死に咀嚼して、

 どうにか飲み込むと、


「……お前の言っていることが事実だったとして……それを、俺に言ったのは、なんでだ? なんの意味がある?」


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