27話 サイコオーバーロードなクソ陰キャフツメン。


 27話 サイコオーバーロードなクソ陰キャフツメン。


「お前はなんなんだよ! なんで、そんな不満そうな顔してんだ! お嬢の何が気に入らないんだ! あんないい子と結婚できて、いったい、何が不満だってんだよぉおおお!!」


 膨れ上がった本気の想いをぶつけられて、

 センは爆速で頭を回転させる。

 ファントムトークなら、脊髄反射で垂れ流せるが、

 本気の想いに対しては、本気の覚悟で向き合う必要がある。


 コンマ数秒で、

 自分の覚悟を整えると、

 センは、強い目で、宝生を睨みつけて、


「不満がないわけじゃないが、けど、『黒木に対して不満が満載だから、しんどい顔をしている』ってワケじゃねぇ……ただ単純に『みっともない』のは嫌いなだけだ。俺は無駄にプライドが高いんだよ」


 そう言いながら、センは、

 自分の胸倉をつかんでいる宝生の腕をひねりあげる。


「いぎぃい!」


「お前の主張は理解した。そこそこ納得できる怒りだと思う。かなり、まっとうな意見だった。だから、お前の言い分に対して文句をいう気はない。ある意味で、てめぇは正常だ。悪いのは俺。俺がおかしい。……けどな。『そんなことは分かってんだよ、バカ野郎』という一言ぐらいは言わせてくれや」


 センは、宝生の腕から手を離し、


「俺が嫌いなら、それでも別にいいが、しかし、出刃(でば)を振り回して暴れるのだけはやめておけ。無意味だから。仮に、重火器を装備したてめぇが1億人いても、俺には傷一つつけられない」


「……」


「俺は、お前の想像力では妄想もできないほどの高みにいる。だから、女が寄ってくる。女は、計算高いからな。あいつらは例外なく『今の自分にとって使える男かどうか』を見極める能力がケタ違いに高い。特に、『切羽詰まっている女』は、その嗅覚がとびきり強い。――だから、現状だと、お前じゃなく、俺が選ばれた。契約相手として、俺が最適だった。それだけの話。すべては、それだけの『極めて虚しい話』でしかないんだよ」


「……」


「もし、あいつらの『現状』が『バッチバチの絶望系バトル漫画』ではなく、『愛と恋だけが世界の中心を支配している甘々な少女漫画』だったなら、選ばれていたのは俺じゃねぇ。俺みたいな『サイコオーバーロードなクソ陰キャフツメン』ではなく、『ヒロインを優しくエスコートする長身イケメン御曹司』が主人公になるだろう。つまり、てめぇが選ばれる。お前が主役の物語に、俺はモブとしてすら登場しないはずだ。こんなクソ陰キャを登場させたら、読者の女子中高生から石を投げられるだろうからな」


「……」


「お前の嫉妬は極めて筋違いだ。俺は何も手に入れてなどいない」


「……」


「俺はただの剣だ。便利に使われるだけの道具。刃こぼれしてヘシ折れたら捨てられるだけの消耗品。上位互換の代替品が見つかれば、即刻お役御免になるコモンアイテム。嫉妬する価値はねぇ。お前は、あいつらが登校用に使っているリムジンに嫉妬するか?」


「……」


「理想の未来を描いていたのはお前だけじゃない。俺にだって、望んでいる明日はあった。けど、現状は、望んでいた今日じゃねぇ。バカみたいに必死になって積み重ねた先に待っていたのは、吐くほどの虚しさが広がっているだけのイカれた無限地獄だった」


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