26話 ファントムトークの天敵。


 26話 ファントムトークの天敵。


「今の俺はなぁ……あのバカ女どもから総攻撃を受けていて、非常にイライラしている。怒りが有頂天に達するとは、まさにこのこと。殺されたくなかったら、二度とウザ絡みしてくるんじゃねぇ」


 軽くブロント語を交えつつ、

 宝生を黙らせようと覇気を強めるセン。


 長年磨いてきた殺気を前にして、

 SAN値をフラットに保っていられる高校生など存在しない。


 魂の奥が震えている宝生に、

 センは、トドメとばかりに、


「ここ最近、しんどいことが重なりまくって、いい加減、爆発しそうなんだ。本当にしんどい。あのキ〇ガイ女どもの相手をするのは本当にキツいんだ。でも、それでも、俺は、頑張って生きている。そんな健気な俺に免じて、どうか、ソっとしておいてくれませんかね」


 などと、そんなことを口にするセンに、

 宝生は、ボロボロと涙を流しながら、


「どうして……」


 情緒不安定を爆発させつつ、






「どうして……お前は……幸せそうじゃないんだよぉ……」






「……」


 宝生の『本気の言葉』をぶつけられて、

 センは黙るしかなかった。


 ファントムトークが停止する。

 『本気の想い』だけは受け流せない。


「マナミお嬢と結婚したことが……なんで……しんどいんだよぉ……」


 ポロポロと、その目に、透明な水滴がたまっていく。


 その様を、センは、


「……」


 黙って見届けている。

 不安定な感情の中で、

 ただ、黙って、宝生の言葉と向き合う。


「ふざけるなぁ……ふざけるなぁ……」


 みっともなく号泣しながら、

 センに、不満をぶつけ続ける宝生。


「お嬢は……努力家だ……もちろん、天才だが、先天的ギフトよりも、後天的な積み重ねの方が上回っている稀有な存在。生まれつきの過剰ギフトをブン回しているだけの紅院や茶柱とはワケが違う。俺は、お嬢の努力を、ずっと見てきた……」


「……」


「頑固で融通がきかないところもあるけど、気配りのできる優しい子で……周りのことをよく見ている……」


「……」


「お前、そんなお嬢と結婚できたんだろ……ありえないほどの僥倖じゃねぇか……みっともなくはしゃいでしかるべきだろ……喜びに打ち震えて、アホウのように浮かれて小躍りするべき……なのに、お前はなんだ……なんで、ずっと、しんどそうな顔してんだ……それだけでも罪なのに……なんで、他の女を、何人も侍らしているんだ……ふざけるな……ふざけるなぁ……」


「……」


「お嬢を幸せにしてくれる人なら、まだ耐えられた……俺を選んでほしかったけど、俺以上に、お嬢を幸せにできるヤツが相手なら、我慢できると……そんな苦しみを抱えながら、けど、本当は、絶対に俺を選んでほしいから、必死になって、俺も頑張ってきて……それなのに……それなのにぃいいいい!」


 そこで、感情が再度炸裂した宝生は、

 センの胸倉をつかみ上げ、


「お嬢を幸せにできないヤツでも、『お嬢と結婚できて世界一幸福だ』とバカみたいに喜んでいるヤツが相手だったなら、まだ我慢はできたかもしれない! いや、出来ないだろうけど! お前みたいな態度をとるやつよりはましだ! お前はなんなんだよ! なんで、そんな不満そうな顔してんだ! お嬢の何が気に入らないんだ! あんないい子と結婚できて、いったい、何が不満だってんだよぉおおお!!」

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