13話 利き手をあげろ。

 13話 利き手をあげろ。


「それでは、何をしにここへきたのかしら?」


 穏やかな口調で尋ねてくるオールドレディ。

 ――センは、彼女の目を睨み、


「ナメたマネしたバカどもを叱りつけにきた」


「……六周りくらい離れた年下の少年に叱られる日が来るとは、さすがに思っていなかったわねぇ。……この年になると、叱りつけることはあっても、叱られることは、ほとんど完全になくなってしまうのよ」


「だろうな。俺も、六周り上のばあさんを叱る日がくるとは思っていなかったよ」


 そう前を置いてから、

 センは、全体を見渡して、


「いい大人がこれだけの人数集まって、誰も『高校生を殺すのは流石にやめておきましょう』と『言わなかった』ってのが驚きだ。お前らが凶悪犯罪者の集団だってんなら、まあ、ソレもわからない話ではないが、しかし、仮にも『世界を統治する立場』にありながら、『当たり前の常識が備わっていない』ってのは、どういう了見だ?」


 そこで、紅院正義が、


「仮にも『世界を統治する立場』にあるからこそ、常識を見失ってしまう……ということが、この世の中ではままあること」


 そう言ったのを受けて、

 センは眉間にしわをよせ、


「……『稀によくあるかどうか』は、この状況において、どう考えても、どうでもいいだろ」


 血走った目で、正義を睨みつけ、


「まだ理解できないか? 俺は、てめぇの『クソ以下の言い訳』を聞きにきたわけじゃねぇ。言葉で言っても伝わらないなら、行動で示してやるよ」


 そこで、センは立ち上がり、



「全員、利き手を上にあげろ」



 センの発言に対し、

 表情で全員が『?』の意を示した。


 そんな彼らに対し、センは、


「俺に同じことを三回言わせたら人生終了だと思え。……全員、利き手をあげろ」


 より高圧的・威圧的に語気を強めて、

 後半は巻き舌になりながら、そう言った。


 その声音から、『逆らわない方がいい』と、この場にいる誰もが即座に理解して、

 聞き返すことも、理由を尋ねることもせず、

 全員が、利き手を上げた。


 ――仮にセンの言動が『ガキがイキっているだけ』のものなら、

 『己の信念』に従って『命がけで逆らう』という選択肢をとるものも、

 この中には、何人かいただろう。


 ここにいる者の『覚悟』と『プライド』をナメてはいけない。


 センに声をかけた老婆『アレマップ・ゾーヤ』なんかは、

 『鬼のような覚悟』が『だいぶガンキマっている部類』であり、

 『イキっているだけのガキ』に従うぐらいなら死を選ぶ、

 というのが彼女の人生における基本方針。


 実際、彼女は、これまでの人生で、何度か、

 サイコな特攻野郎に拳銃を突き付けられたことがあるが、

 その全てを、鼻で笑ってきた。


 『暴力で私に言うことを聞かせるのは無理だよ。死を恐れたことはないからね』


 ――『それほどの覚悟が決まっている彼女』が、

 『センの命令』に黙って従ったのは、

 『全身がしびれた』から。


 センに『本気』で命令された瞬間、

 これは『王の命令である』と、

 本能が理解した。


 理性の承認を振り切って、

 彼女の芯が『センに従うこと』を求めた。

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