12話 話し合いのはじまり。

 12話 話し合いのはじまり。


「いつでも利用してくれ。ここのオーナーは私だ。大統領が相手だろうと、天皇が相手だろうと、必ず金をとるのが私の主義だが……君に限っては、すべてのサービスを無料で提供させてもらう」


「際立った特別扱い、痛み入るねぇ。だが、断る。ホテルを利用したいと思ったことなんざねぇし、なにより、俺には、金持ちの施(ほどこ)しを受ける気が微塵もねぇ」


「施しではなく、単なる恭順だよ、ミスター閃壱番。君に平伏している。それだけの話さ」


 などと、会話をしながら、

 センは、トイレの外に出る。


 長くて広くて豪華な廊下。

 見上げれば、当然のようにシャンデリア。


「……全員、同じ場所に集まっているのか?」


「中心の8名が、そこの部屋に集まっている」


 そう言いながら、大きな扉を指さす。


「他の面々は、下のフロアにいる。全員を呼ぶことも可能だが、物理的な空間の問題で、一部屋に全員が集まるのは厳しいかもしれない」


「今回の『責任者』にあたるやつだけ呼んでくれ。もちろん、マクロで見れば、300人委員会の『全員』が責任者だろうが、そういうことじゃなく、『今回の防災訓練』に『正面から関わった連中』という意味だ」


「判断が難しいところだが……10人……いや、15人か……どこまでを『正面』と捉えるかで大きく変わってくる。ある意味で、全員が正面からかかわっているゆえ」


「じゃあ、今回の件で『ガキを殺すこと』に賛成していたやつを呼んでくれ」


「……50人全員だな」


「……マジでか……」


 そこで、センは、天を仰ぎ、


「あー、じゃあ、もう、全員呼んでくれ。で、扉をあけたままにして、廊下に並ばせておけ」


「おおせのままに」






 ★






 五分後、

 会議室の奥に陣取ったセンと、

 長机に腰をかけている8人、

 そして、その周りで立っている20人と、

 廊下に並んでいる30人という、

 なかなかの人数がひしめき合う空間が完成した。



「閃くん……全員そろったようだ。はじめてくれて構わない」



 ヌルっと進行役になっている正義(まさよし)にうながされて、

 センは、いったん、全員を見渡してから、


「まず、最初に言っておく。『責任の擦(なす)り付け合い』を始めたヤツは殺す。『そいつ』を、率先して殺す。そいつが本当に責任のない立場だったとしても殺す。俺は泥沼劇場を見に来たわけじゃねぇ」


 と、そこで、紅院正義の隣に座っている60代前後と思しきオールドレディが、


「それでは、何をしにここへきたのかしら?」


 と、穏やかな口調で尋ねてきた。

 彼女は、ロシアのフィクサーで、

 『ロシアンマフィアのドン』の『総まとめ』という立場にある。

 シワは目立つが、背は曲がってはいない。

 鋭い眼光と、にじみ出るオーラが特徴的なコワモテBBA。

 体格は小柄だが、纏う雰囲気からは妖気すら感じる。


 彼女は、実のところ『非常に苛烈な性格をしている老婆』なのだが、

 センが相手だと、さすがに本性むき出しというわけにはいかない。


 トコたちの報告を『全て信じている』というワケではないが、

 センの『ピリつき方』を受けて、

 生存本能が『逆らうべきではない』とアラームをたてている。


 闇社会の深部で生きてきた彼女の人を見る目は確か。

 ゆえに、彼女は、黙ってセンの言葉に耳を傾ける。

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