68話 EZZパニッシャー。


 68話 EZZパニッシャー。


「私という宇宙的恐怖の最果てを前にして、安寧に死ねるなどと、決して思うな」


「……」


「自覚しろ。貴様らの前には私がいる。この私がいるのだ。畢竟(ひっきょう)。貴様らは、絶望を数えながら死に狂(ぐる)うしかないのだ」



 強い言葉で詰め寄ってから、

 ギは、


「さあ、はじめよう。その枯れかけの命に、混沌の花を咲かせよう。貴様は幸福である。極限の絶望を味わってから死ねるのだ。こんなに贅沢なことはない」


 両腕を広げる。

 まるで両翼をはためかせるように。


 ギの全てが一回り大きくなったように感じた。

 実際、オーラと魔力が、一段階ふくらんだ。


 虚影を握りしめているゾーヤは、

 ギの大きさが理解できた。


 完全な理解には届かないが、

 しかし、『人間ではどうしようもない』という、

 正しい理解を果たすことはできた。


 だから、震える。

 壊れそうになる。

 このまま狂ってしまえば、どれだけ楽になれるだろう、

 そんなことまで考え始める。


 しかし、彼女の根性は、なかなか尋常ではないため、

 『恐怖に負けて壊れる』というところまではいってくれない。


 『立ち向かう』という選択肢をとってしまう。

 恐怖の中でも、抗ってしまう。



「いっ……『EZZパニッシャー』っっ!!」



 恐怖で一杯になった頭がとった選択肢。

 それは、虚影を掲げながら、特殊スキルを放つというものだった。


 虚影を手にしたことで解放された、彼女の魂魄に刻まれた技能。

 封印属性の超高ランクスキル。


 EZZパニッシャーを放った直後、

 ギを中心として、結界の渦が広がっていく。


 そこらのGOOであれば、

 完全に動きを拘束できるほどの超絶スキルだが、


「決して悪くない魔法だ。厚みがある。貴様のポテンシャルは、なかなかのもの。人間という脆弱な種として生まれていなければ、もしかしたら、神の領域にまで足を踏み入れることも不可能ではなかったやもしれん。……過大評価かな? 否。正当な評価だ。貴様のポテンシャルは本物。潜在能力だけは、間違いなく素晴らしい。とはいえ、内包されている力だけがいくら高くとも、それを活かす土台と環境がなければ、何の意味もないというのも、また事実」


 などと言いつつ、

 じっくりと、ゾーヤのEZZパニッシャーを味わってから、

 軽く体を震わせるだけで、



 グニィッ、バチィィンッッ!!



 と、至極あっさり、弾けて消えた。


 その様を見て、

 ゾーヤは、


「……ぁ……」


 ただ、絶句するしかない。

 別に、自分のスキル一つで、目の前の神を封じられるなどとは思っていなかったが、しかし、ここまで、ゴミのように扱われると、さすがに正気を保ってはいられない。


「うぅ……ぅう……」


 さらなる恐怖が膨れ上がっていく。

 この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。

 けれど、最後の最後で、心が壊れ切ってくれない。

 彼女は、心が強すぎた。

 そのエゲつない根性が、

 今の彼女を、この地獄に縛り付けている。


 ――可愛く失神できれば楽だった。

 あとは、何も考えず、無の中で気楽に死を待つだけでよかった。

 しかし、彼女にはそれができない。

 彼女は、心が強すぎた。

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