69話 人間ごときがアウターゴッドに勝てるわけがない。


 69話 人間ごときがアウターゴッドに勝てるわけがない。


 ――可愛く失神できれば楽だった。

 あとは、何も考えず、無意識の中で気楽に死を待つだけでよかった。

 しかし、彼女にはそれができない。

 彼女は、心が強すぎた。


「……たす……けて……」


 心が強いからといって無敵というわけではない。

 だから――というのもおかしな話だが、

 しかし、やはり、だからこそ、

 気づけば、ゾーヤは、救いを求めていた。

 特定の誰かをイメージしているわけではない。

 彼女は、『神』に救いを求めはしない。


 無神論者だから、というのも理由の一つだが、

 何よりの理由は、その『神』こそが、自分を追い詰めている敵だから。


 頭の中で、チラと『センエース』という概念が浮かんだものの、

 しかし、


(勝てるとは思えない……人間が……本物の神に……)


 ゾーヤは思う。

 『センエースという男』が実在するとしても、

 その男が倒したのは、所詮、『高位のGOO』でしかなく、

 『本物の神』ではなかったのだろう、と。


(これには勝てない……人間ごときが、これに勝ててはいけない)


 ブルブルと震えながら、

 彼女は絶望の底へとしずんでいく。


 底なしの絶望に引きずり込まれ、

 まともに呼吸もできないほどアップアップしているのに、

 最後の最後で、意識を保ってしまう自分を呪う。


 ――と、そんな、地獄の底でうめいていると、

 『お叱りを受けて以降はおとなしく傍観していたナバイア』が、



「うらぁあああっ!」



 と、叫びながら、

 ゾーヤに向かって、斬りかかってきた。


 どうやら、ゾーヤがギに抗っている間にマヒはとけていたらしい。


 ゾーヤは、反射的に、ナバイアの虚影を、自分の虚影で、防ぐ。

 ギィィィンと、鋼鉄同士の弾き合う音が世界に響き渡る。


 ゾーヤは、キチ〇イを見る目で、ナバイアを睨み、


「……ど、どういうつもりだい? なぜ、私に攻撃する?」


「神に選ばれた人間は私だけでいい。同じ力を持つ人間はいらないぃい! 私だけが頂点でいい!」


 などと、ガチ自己中なことを叫びながら、

 ナバイアは、ゾーヤに何度も、何度も、剣を振り下ろす。


 先ほど、ナバイアの行動を咎めたギだが、

 今回はニヤつきながら静観している。


 ゾーヤは、心底ブチ切れた顔で、


「……この、クソバカがぁ……」


 そうつぶやきながら、

 ナバイアの剣を強くはじく。

 と、同時、

 ヒュンッと、軽やかに、虚影を振り上げる。


 スパァッと、鮮やかな音がして、

 気づけば、ナバイアの右腕が宙を舞っていた。


 虚影を握りしめたまま、

 円を描きながら、空をただよう右腕。


 ――ゾーヤとナバイアでは、魂魄の質に差がありすぎた。


 コンマ数秒の後、

 自分の腕が宙に在ることを知ったナバイアは、


「ああ、腕ぇええ! えぇええ?!」


 奇声を上げて苦痛を叫ぶ。

 そんなナバイアの腹に、


「やかましいぃい、クソガキィ!!」


 非常に綺麗なヤクザキックをかましていく。


 虚影を手放したことで、

 『虚影の補正を失っているナバイア』は、

 ゾーヤの蹴りを受けて、思いっきり吹っ飛び、

 壁に激突して、そのまま気を失った。

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